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【片渕須直監督】映画『マイマイ新子と千年の魔法』「かけがえのない場所になる」と思うきっかけ作品[広島国際映画祭2024]

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11月22日から3日にわたって行われた『広島国際映画祭2024』にて、映画『マイマイ新子と千年の魔法』が上映され、作品を手掛けた片渕須直監督が登壇、監督と広島のつながり、『マイマイ新子と千年の魔法』の知られざるエピソードなどについて語りました。


片渕須直監督トークショー


2009年の公開以来、大きな反響を呼び以後「~周年記念」という行事が毎年行われるほどに親しまれている『マイマイ新子と千年の魔法』。片淵監督はつい先日、この作品で主役の新子の声を務めた女優の福田麻由子と対面した時のことを挙げ「子役でデビューして12歳だった彼女が現在まで活躍している中、この映画に出演されたことで『子供に戻れる』という体験をした機会があった、といわれていたんです。その間僕らは机の上で絵を描いているだけだったので、羨ましいなと思いました。そういう時間が、映画の上で過ぎたわけなんです」と感慨深げに回想します。


一方で、本作の製作がいろいろな意味で次作の『この世界の片隅に』につながっているという経緯を、改めて片淵監督自身がたどった経緯より説明していきます。監督が初めて広島を訪れたのは、映画公開の1年ほど後。今は無き広島・鷹野橋にあったサロンシネマという映画館で本作の上映が決まり、舞台挨拶のために広島を訪れた時のことで、サロンシネマの会場の雰囲気に大いに刺激されたことを振り返ります。

「天井に天使の画が書かれていて、シートはMAZDAの車のシート、席の前に飲み物を置ける棚があって、コップなどを置けるような穴があったんですが、実はそれ、一輪挿しの(花を入れる)穴だったんです。昔は座席前に一輪挿しの花があったような映画館だったらしい。そんな映画館における広島の原体験や、映画館の支配人さんにお好み焼きを食べさせていただいたことなどをきっかけに、広島という場所を自分で見つめたいと思ったんです」

ちょうどその時、片淵監督はこうの史代の原作である『この世界の片隅に』を購入しながらまだ読んでおらず、この時をきっかけに作品を眺め、自ら作品を制作する決意を固めたといいます。その決意を固めたのが7月、そして8月にはプロデューサーに相談し最初は難色を示されながらもアニメ化の権利を得て、さらに8月の終わりごろに広島・廿日市にてこうの史代の作品原画展があることを知り、強行軍スケジュールで終了間際になんとか現地に到着、原画を見ながら「どんな作品にしようか」というプランを考えていたという記憶をたどります。


もともとSNSなどで広島の知人・友人が数多くいたという片淵監督は、その展示会の帰りに初めて原爆ドームを訪問し「その展示館の帰りに原爆ドームを初めて見ました。まだ自分にとっては遠い場所だけど、この街が自分にとってかけがえのない場所になるなと思いました」と心に思ったと語ります。

ちなみに本作で見られるタンポポの光景が『この世界の片隅に』でも見られることに関しては、作品には何らかのつながりがあるというファンの推測がさまざまに飛び交っていましたが、このことに関して片淵監督は、この場においてその意見を肯定しています。


またこの日は、次作となる『つるばみ色のなぎ子たち』のパイロット版を上映。宮中の華やかな世界を想像させる時代性の一方で、作品では疫病に苦しむ人、感染し野原に放り出される子供などの目をそむけたくなるような場面をもありのままに描写しているところが目を引いており「(こういった場面を敢えて描いているというよりは)そのまま描いているという感じなんです。平安時代に書かれた書物は『枕草子』以外にもたくさんあって、『今昔物語集』などまで含めて読むと、結構こうした『子供が疫病で亡くなる話』といった内容はたくさん出てくるんです」とその描写の意図を説明します。

パイロット版のラストに「枕草子」のあとがきとなる部分「筆も使ひ果てて、これを書き果てばや…」という文面が映し出される箇所については、片淵監督ならではの独特な視点を説明します。

「この部分を描いた時点で、清少納言は『書き続けてきたけど、そろそろ書き終わらなければ』という感じだったのではないか、と思います。疲労困憊して書き終えたような感じだったのではないかと。

『枕草子』は楽しい話、笑えるエピソードがずっと綴られているだけど、その内容描くことが彼女にとって必要だった意味は『彼女がなにか精神的に打ちひしがれることがあり、それを打破するために必要だった』のではないだろうかと考えたんです。

つまり、暗いことをかなり経験していたからこそ、明るいことを描くことで自分を取り戻そうとしていたのではないだろうか、と思うわけです。『人が亡くなる』『疫病が流行る』という時代的な流れからいっても、清少納言にとってはかならずしも明るい時代ではなかったけど、その中で明るさを求めようとしたんじゃないでしょうか」

また作品ではボウフラが描き出されるシーンがあり、その様子を観察する必要に迫られて「スタジオでボウフラを養殖した」などといったウソのようなエピソードが明かされ、観衆を沸かせる一方で、パイロット版にはまだ時代考証という点で納得のいく考証ができていないことが明かされ、示されたものは「ほぼ描き直されるだろう」と片淵監督がコメント。それでも当時の生活を細部にわたるまで追い求め描かれたその結晶は大いに観衆の目を引き、完成への期待をさらに膨らませるものとなっていました。


映画『マイマイ新子と千年の魔法』

映画情報

映画『マイマイ新子と千年の魔法』予告動画


(以下、『広島国際映画祭2024』公式サイトより)

ストーリー

想像の翼をぐんぐん広げ、千年前の町の姿やそこに生きる幼い姫まで思い描く。
そんな少女・新子が、転校生・貴伊子や仲間とともに過ごす、楽しくも切ない季節。
ゆったりとした自然に囲まれた山口県防府市・国衙。
平安の昔、この地は「周防の国」と呼ばれ、国衙遺跡や当時の地名をいまもとどめている。

この物語の主人公は、この町の旧家に住み、毎日を明るく楽しく過ごす小学3年生の少女・新子だ。
おでこにマイマイ(つむじ)を持つ彼女は、おじいちゃんから聞かされた千年前のこの町の姿や、そこに生きた人々の様子に、いつも想いを馳せている。
彼女は“想う力(ちから)”を存分に羽ばたかせ、さまざまな空想に胸をふくらます女の子であり、
だからこそ平安時代の小さなお姫様のやんちゃな生活までも、まるで目の前の光景のようにいきいきと思い起こすことができるのだ。
そんなある日、東京から転校生・貴伊子がやってきた。

都会とは大きく異なる田舎の生活になかなかなじめない貴伊子だが、好奇心旺盛な新子は興味を抱き、
お互いの家を行き来するうち、いつしかふたりは仲良くなっていく。
一緒に遊ぶようになった新子と貴伊子は同級生のシゲルや、タツヨシたちとともに、夢中になってダム池を作る。
そして、そこにやってきた赤い金魚に、大好きな先生と同じ「ひづる」と名前をつけ、大切に可愛がるようになる。
やがて新子たちは、学校が終わるとこのダム池に集まって過ごすようになっていた。

しかし、ふとしたことから「ひづる」が死んでしまい、それを機に仲間たちとの絆も揺らぎ始めていく。
そんななか、新子は「ひづる」そっくりの金魚を川で見かけたという話を聞き、貴伊子や仲間たちと金魚探しを始めるのだった。

そして、みんなの心が再びひとつになりかけたその時……。


キャスト

青木新子役:福田麻由子
島津貴伊子役:水沢奈子
諾子(なぎこ)役:森迫永依
青木長子(新子の母)役:本上まなみ

監督・脚本:片渕須直
制作:スタジオ:マッドハウス
音楽:村井秀清、Minako “mooki” Obata
主題歌:「こどものせかい」コトリンゴ

(C)2009 高樹のぶ子・マガジンハウス/「マイマイ新子」製作委員会


映画『つるばみ色のなぎ子たち』予告動画


(C)つるばみ色のなぎ子たち製作委員会/クロブルエ

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桂 伸也

桂 伸也

“和”という言葉で表現されるものには、人によって色んなイメージがあると思いますが、私は“整然として落ち着いたもの”という雰囲気を感じ取っています。

普段は芸能系ライターとして活動を行っており、かなり“にぎやかな”世界に生きていますが、その意味で“和”という言葉から受ける雰囲気に、普段から強い憧れや興味をもっていました。

なので、そんな素敵な“和”の世界へ、執筆を通して自らの船を漕ぎ出していきたいと思っています。

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