【妖怪】「百鬼夜行」「魑魅魍魎」ってなに? 違いから語源・由来を紹介
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百鬼夜行と魑魅魍魎の違い
百鬼夜行と魑魅魍魎は、妖怪や化け物に関係する四字熟語ですが、意味は全く異なります。
簡単に言えば、百鬼夜行は「妖怪たちの行動」を指し、魑魅魍魎は「さまざまな妖怪の総称」を指す言葉です。
どちらも得体のしれない異形の者についての言葉ですが、鬼や妖怪たちが集団で列をなしてそぞろ歩く様子が「百鬼夜行」であり、様々な化け物や精霊の総称が「魑魅魍魎」なのです。
百鬼夜行
[ひゃっきやぎょう/やこう]
1)種々の妖怪が列をなして夜歩くこと。ひゃっきやこう。
2)多くの人々が徒党を組んで、奇怪な行動をすること。
(精選版 日本国語大辞典より引用)
百鬼夜行の語源・由来
百鬼夜行は、平安時代末期に成立した『今昔物語集』や、『宇治拾遺物語』などの「説話集」に登場します。
説話によれば、百鬼夜行を行う鬼たちは、夜中に明かりを持ち百人ほどでやってきたと言います。一つ目のものや角を持ったもの、おかしな頭を持つものなど、様々な恐ろしい姿をしていたようです。(『宇治拾遺物語』巻1第17話「修行者、百鬼夜行に逢ふ事」より)ところが室町時代になると、いわゆる「百鬼夜行絵巻」と呼ばれる多数の絵巻物が登場し、百鬼夜行の様子が視覚的に表現されるようになります。
絵巻物では、「道具」や「動物」などがモチーフの妖怪や鬼たちが目立ちます。器や釜などの古い道具が化けた妖怪を「付喪神(つくもがみ)」と言いますが、行列のメインとなるのが、この付喪神たちでした。
その後、百鬼夜行絵巻は江戸〜大正時代まで描かれ続けます。ろくろ首、ぬらりひょんなど、おなじみの妖怪の姿がキャラクター化され、ユーモラスに描かれるようになっていきました。
説話集・絵巻
百鬼夜行は様々な説話集や絵巻物に登場しています。ここからは、百鬼夜行について描かれた主な説話集や絵巻をご紹介します。
代表的な説話集
●『大鏡』平安時代後期成立の歴史物語
●『今昔物語集』平安末期成立の説話集
●『宇治拾遺物語』鎌倉時代前期成立の説話集
●『沙石集』鎌倉時代中期成立の仏教説話集
代表的な絵巻物
●『百鬼夜行絵巻』(大徳寺真珠庵蔵)室町時代成立の重要文化財
● 狩野洞雲『百鬼夜行図』(国立歴史民俗博物館蔵)江戸時代前期成立
●『百鬼夜行絵巻』(スペンサー・コレクション、ニューヨーク公共図書館蔵)
●『百鬼夜行絵巻(す本)』 (国立国会図書館蔵)江戸時代中期成立
●『百鬼夜行絵巻』(東京国立博物館蔵)江戸時代成立
● 原在中『百鬼夜行絵巻』(大阪市立美術館蔵)江戸時代成立
魑魅魍魎
[ちみもうりょう]
1)いろいろな妖怪変化。種々のばけもの。
(精選版 日本国語大辞典より引用)
魑魅魍魎の語源・由来
魑魅魍魎は、もともと中国で生まれた言葉です。初めて四字熟語として示されたのは、中国春秋時代に書かれた書『春秋左氏伝』で、「魑魅罔兩(魍魎)」という言葉が使われています。『春秋左氏伝』から、魑魅魍魎の性質が分かるエピソードをご紹介します。
「夏(か:中国最初の王朝)」の王が、この世の色々な物の絵を鋳込んだ「鼎(かなえ:三本足の付いた金属の祭具)」を作り、物の怪の姿が見分けられるように民たちに教え示した。だから民たちは山林や川に入っても、魑魅魍魎から逃れることができたのだ、というものです。
つまり魑魅魍魎は「山林や川にいて、人に災いをなす物の怪の類」とされていたことが分かります。
魑魅魍魎の姿
それでは、魑魅魍魎は一体どのような姿をしていたのでしょうか。魑魅と魍魎は別の物の怪として説明されていることが多いため、それぞれ代表的な説をご紹介します。
司馬遷の編纂した『史記』五帝本紀の注釈によると、「魑」は虎の姿をした山の神、「魅」を猪の頭が付いた川の神とする説があります。また、前漢の思想書『淮南子(えなんじ)』には、魍魎は「三歳の小児の如し、色は赤黒し、目は赤く耳は長く、美しい髪をもつ」という記述もあります。
中国では、魑魅魍魎について数多くの説があり、少なからず日本での魑魅魍魎のイメージに影響を与えています。続いては、日本における魑魅魍魎の姿をご紹介します。
日本の魑魅魍魎
魑魅魍魎という言葉が日本に伝わると、さらに具体的な姿や性質などの解釈が加わっていきます。
1785(天明5)年刊行の黄表紙(絵本)『百鬼夜講化物語(ひゃっきやこうばけものがたり)』は、そんな魑魅魍魎が絵として描かれた貴重な例です。それによると、江戸時代には「魑魅」と「魍魎」が対をなす妖怪として考えられていたようです。
「魑魅」は顔は人間、体は獣の姿をした山に住む怪物として描かれています。これらは、山林の悪い気から生まれると伝えられています。
一方の「魍魎」は、中国の『淮南子』の記述にならい、赤黒色の肌に赤い目、長い耳に美しい髪を持った「鬼」のような姿で描かれます。山や川、木、石など自然物の精から生じ、人の声をまねて人をたぶらかしたり、死者を墓から引きずり出して食べることもあるとされています。
二体は母子のような姿で描かれていますが、これは山の神を女性に例える日本古来の価値観によるものだと考えられます。
まとめ
身近なマンガやアニメ、ゲームなどの中には、妖怪をモチーフにした作品も数多くありますよね。ご紹介した言葉だけでなく、気になった妖怪や現象があれば、ぜひ歴史を調べてみましょう。
より深く作品を楽しめるような、新たな発見があるかもしれません。