【濱口竜介監督】「村上春樹原作の物語を広島で」撮影で得た喜びと感謝の思いを語る。映画『ドライブ・マイ・カー』[広島国際映画祭2021]
映画『ドライブ・マイ・カー』
映画『ドライブ・マイ・カー』は、ある日突然愛する妻と死別し喪失感を抱えながら生きる一人の男性が、地方で一人の女性に出会あったことをきっかけに新たな人生に向けての一歩を踏み出す姿を描いたヒューマンドラマ。村上春樹の短編小説を原作に舞台を広島に移して製作されました。
『寝ても覚めても』などの濱口竜介が監督と脚本を手掛け、作品は第74回カンヌ国際映画祭で日本人としては初の脚本賞を受賞しました。キャストには『きのう何食べた?』シリーズなどの西島秀俊、歌手で『21世紀の女の子』などで女優としても活動する三浦透子、『運命じゃない人』などの霧島れいか、『さんかく窓の外側は夜』などの岡田将生らが名を連ねています。
原作をもとに様々な変更を加えながら、当初は韓国の釜山で撮影する予定となっていた本作はコロナ禍の影響により予定の変更を余儀なくされ、偶然スタッフ陣がその頃関わった広島という地に、韓国でのロケハンで見つけたロケーションの代わりになる場所を探し当て、変更を進めるという経緯に至ったといいます。
先ほど受賞が報じられたカンヌ国際映画祭でも、メディアからの取材では「何故広島という場所を選んだのか」という質問は多く受けたという濱口監督。その質問の意図を「世界唯一の被爆地」という世界的なイメージからと察しつつ「実はそこまで(広島という場所に深い)関わりがあるわけではないんですが、答えているうちに『意外と離れていない』という風にも思いました」と、改めて物語に埋め込まれているテーマと、被爆地という二つのポイントに共通する「過去に受けた傷からの再生」などといった共通点を見出していたことを明かします。
一方で、当然持たれると予想されたそんな広島のイメージがあることに対して当初は「自分が広島を撮るのは、まだ早いんじゃないか」と懸念し、本当に物語にはまってくるのかと疑念を持っていたことを吐露しつつも、当初の脚本の構造を大きく変更する必要がないという判断のもと作業を進めていったと回想します。
また広島編の撮影クランクアップ時には、撮影に関わった全員が号泣するという特異な状況が現れたことを振り返り、「あの(撮影には厳しい)時期に、海外の人など含め我々を信じて現場を訪れ、時間を共にしてくれた。そんな思いが全スタッフに伝わったんだと思うんです」とコメント。
「基本的に現場での監督の作業って少なくて、どちらかというとスタッフの方が多い。スタッフの影の動きが現場を支えてくれました」と改めて製作に携わった関係者一同への感謝の気持ちを述べるとともに、最後の挨拶として「ヒロシマで(映画を)撮らせていただいて本当に幸せでした。ありがとうございました」とのコメントでトークを締めくくりました。
濱口竜介 プロフィール
1978年、神奈川県生まれ。東京大学文学部卒業後、助監督や経済番組のADを経て、東京藝術大学大学院映像研究科に入学。2008年、修了制作『PASSION』が国内外の映画祭に出品され高い評価を得る。
その後も、東日本大震災の被災者へのインタビューからなる『なみのおと』『なみのこえ』、4時間を越える長編『親密さ』(2012)など、地域やジャンルをまたいだ精力的な制作活動を続けている。
『ハッピーアワー』(2015)でシンガポール国際映画祭最優秀監督賞、文部科学大臣芸術選奨新人賞を受賞。最新作『寝ても覚めても』はカンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、2018年9月公開予定。
映画『ドライブ・マイ・カー』
[公式サイト] https://dmc.bitters.co.jp/