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【かき氷】平安貴族が愛した「削氷」とは? 清少納言が描いた上品な夏の涼味

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枕草子とは

清少納言の書いた随筆

枕草子は平安時代中期となる1001(長保3)年頃に書かれた女流作家としては最古の随筆(エッセー)作品となります。

当時の天皇の后のひとり中宮「定子」に仕えた女房(宮廷女官)であり、聡明だった清少納言は彼女から気に入られていました。そして貴重な料紙を定子から賜ることになり、そこへ日々の出来事を綴ることにしました。それが枕草子です。

枕草子は中宮定子の主催するサロンで発表され、女房としての品格や好みが述べられていたり、清少納言の個人的な意見や感想が書かれるなど非常に自由闊達な内容。また瑞々しい季節の移ろいや、音や色彩表現の多彩さも特徴のひとつです。そのなかで共通していたのが、漢字だけでなく感情を表現するのに適した仮名文字(ひらがな)を使用していたこと、簡潔な文章が美しくリズミカルにまとめられていたことなどです。


削氷ってどんなお菓子?

削氷が登場する章

削氷は枕草子 第四十二段「あてなるもの」の章に登場します。全文は以下の通り。

あてなるもの 薄色に白襲の汗衫(かざみ)。かりのこ。削り氷にあまづら入れて新しき金鋺(かなまり)に入れたる。水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪の降りかかりたる。いみじううつくしきちごのいちごなど食ひたる。

[現代訳]
上品なものといえば、薄紫色にさらに表裏が白色の単。鴨の卵。削り出した氷に甘葛(あまづら)をかけて、真新しい金属椀によそってあるもの。水晶の数珠。藤の花。雪の降りかかった梅の花。可愛らしい子供が苺を食べているところ。

高貴で美しいものというお題で書かれた「あてなるもの」には、滑らかな質感の絹織物や、すぐに壊れてしまう卵。雪をかぶってもなお凛としている梅の花、などが挙げられています。そして細かく削った氷を、金属のお椀に盛り付けた涼やかな姿の削氷が入っています。すぐに溶けてしまう氷ですけれど、削氷の持つ刹那的な美しさを清少納言は貴く上品だと述べているのです。


氷を保管した氷室

削氷の原材料はご存知の通り氷なのですが、電気もない、冷蔵庫もない、そんな時代にどうやって保管していたと思いますか?百歩譲って真冬ならば容易に入手ができたことでしょうけれど、底冷えのする真冬の京都でわざわざ氷を削って食べるとも考えられません。一般的に、清少納言はこれを暑い季節に食べていたと推測できます。

その保存方法は、洞窟や地面に穴を掘り、茅葺などの小屋を覆うように建て、その中に氷を保冷したと考えられています。地中は、地下水などの気化熱によって外気より涼しく、また湿度を保つことができたため夏まで氷を保管できました。本来、冬にしか手に入れることのできない氷は希少性が高く、朝廷や将軍家など権力者、それらに類する人々だけが使用することができたとされています。

古くは日本書紀にもその名が見られ、京都には氷室があった地を「氷室町」としたり、神奈川県鎌倉市には源頼朝が雪を貯蔵した地を「雪ノ下」と現在も呼んでいます。他にも、奈良県奈良市には氷の神を祀る「氷室神社」などもあるのです。


削氷にかけた甘いシロップ

かき氷といえばやはりなんと言いましても、あのカラフルなシロップが美味しさを引き出すポイントのひとつ。赤、青、黄色、その色によって微妙に味が異なったり、舌に色がつくのを互いに見せ合いっこしたなんて記憶のある方もいるのではないでしょうか。可愛いらしい色をしたシロップも香料や着色料の摂取が心配される昨今ですが、現在は果汁や天然の着色料を使用したものも増えつつありますね。

削氷が食べられた時代のシロップは、まさに天然100%の甘味料となる透明な甘葛煎です。その原料となる甘葛については諸説あり、つる性植物の樹液を濃縮したものだとされています。

甘葛は、平安時代に書かれた「延喜式」(律令制度について詳細をまとめた法典)の、「諸国貢進菓子」には全国各地から甘葛煎を集め朝廷に納められたと記されています。奈良時代には、サトウキビから採れる砂糖や蜂蜜なども唐(現在の中国)から輸入されていましたが、どちらも大変貴重な甘味料でした。

甘葛煎も貴重な甘味料であることに変わりはありませんが、室町時代以降には製法が失われ現在は詳しい原料や製法が伝わっていないのです。甘葛煎は日本独自の甘味料だったため、中国にもそれと示す名称、製法も発見できていません。つまり、甘葛煎は幻の甘味料というわけなのです。


まとめ

現代のかき氷のルーツともいえる「削氷」は、平安時代の貴族たちが特別な場で楽しんだ、まさに“上品なお菓子”でした。

氷室で大切に保管された希少な氷に、幻の甘味料・甘葛煎(あまづらせん)をかけて味わう――その贅沢さは、今とは比べものにならないものだったことでしょう。

清少納言が『枕草子』に記したように、削氷は儚さや涼やかさ、そして美しさを感じさせる存在だったのかもしれません。

千年前に思いを馳せながら、今年の夏はかき氷を楽しんでみてはいかがでしょうか


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藤原 一葉

藤原 一葉

歴史や伝統文化、美術など、興味のある方はもちろんのこと、そうでない方にも楽しんでもらえる文章を目指しています!

物心ついた頃から、読書、歴史、世界遺産などに興味を持ち、大学では日本美術史を中心に学んできました。将来的に、趣味と仕事を兼ねることができたら人生楽しいだろうと好きなことを活かせる仕事を探し、行政の歴史書編纂所に勤務。その後、Web制作業、校正業を経て、現在は副業でライターのお仕事をしています。

趣味は、読書、美術館・博物館めぐり、アクセサリー作り、ヒトカラなど。

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