【七草】食す春の七草。観る秋の七草。はじまりから時期、七草の種類を紹介
この記事の目次
春の七草のはじまり
「春の七草」とは、セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトゲノザ・スズナ・スズシロの7種類の植物のこと。人日の節句に1年間の無病息災を願って食べる「七草粥」に用いられます。
七草粥の風習は中国から伝わったものとされ、日本では平安時代の初期に宮中でこの風習が行われるようになりました。そして江戸時代になって庶民の間でも広まったといいます。
春の七草の種類
[春の七草] セリ
セリはセリ科の多年草で、日本全国の山野に自生しています。正月7日に食する「春の七草」の一つなので、その頃が旬というイメージがありますが、セリが旬なのは実は2月〜4月頃。その頃のセリは柔らかい芽をぐんぐん伸ばしている時期なので、セリの一番美味しい部分だとされる茎葉の部分が若く、そして最も柔らかい状態で食せます。
セリには身体に欠かせないビタミンCやミネラル、さらには腸の働きを整える食物繊維も多く含まれ、乾燥して生薬としても用いられています。
[春の七草] ナズナ
ナズナはアブラナ科の越年草で、各地の畑や路肩などで普通に見られます。ナズナの種は可愛らしいハートの形をしているので、「愛(め)でる菜」が「撫で菜」になり、「ナズナ」と呼ばれるようになったのだとか。また実は三味線のような形をしていることから「ぺんぺん草」とも呼ばれています。
和え物やサラダ、汁の具等に幅広く利用されるナズナには、ミネラル、ビタミン、食物繊維、さらには鉄分がバランスよく豊富に含まれています。
[春の七草] ゴギョウ
ゴギョウはキク科の二年草で、「オギョウ」「母子草(ははこぐさ)」とも呼ばれています。人里の道端や田んぼなどで自生していて、4月〜6月になると日本全国でゴギョウの美しい黄色い花を目にします。また、冬の水田にもよく出現することで知られています。かつては草餅を作る際に用いられていましたが、現在ではご承知のとおりヨモギが使われています。
ゴギョウには、タンパク質とミネラルがしっかり含まれていて、気管支炎や風邪の予防にも効果があるとされています。
[春の七草] ハコベラ
ハコベラはナデシコ科ハコベ属の総称です。ハコベとも呼ばれるこの草木は、世界に約120種もあるといわれます。日本では「ハコベ」といえば一般的には「コハコベ」を意味し、全国の道端に白い小さな花を添えています。
ハコベラは中国では古くから薬草として用いられていました。利尿や鎮痛の作用がある他、止血の効果をあるとされています。またハコベラは歯槽膿漏の予防効果も期待できるとして塩を混ぜて歯磨き粉としても利用されていました。
[春の七草] ホトケノザ
春の七草では、ホトケノザと呼ばれますが、正式名は「コオニタビラコ」、または「タビラコ」としても知られています。実は初春に小さな紫色の花をつける「ホトケノザ」という植物は、シソ科の越年草で食用としては利用はされていません。ホトケノザとして春の七草に数えられるコオニタビラコは、湿地を好み、田や周囲のあぜ道などに多く自生しています。
ホトケノザは、健胃や整腸の作用があり、高血圧の予防にも効果があるとされています。
[春の七草] スズナ
スズナとはかぶの葉のこと。根の形が鈴に似ていることから、こう命名されたといいます。日本や中国では古来から食され、乏しい土地でも栽培や収穫ができたため、重宝に利用されていたと考えられています。
スズナはかぶの実の部分より栄養が豊富です。胃腸を整え、消化を促すと言われる食物繊維の含有量は実の2倍近くにも及びます。またビタミンC・Eも多く含まれているので、便秘やむくみ対策としても食されます。さらにはβカロチンも豊富に含まれるので、細菌・ウィルスへの免疫力向上が期待できるので、冬の風邪対策の一つとして食す人も多いのだとか。
[春の七草] スズシロ
アブラナ科の二年草スズシロとは大根の異名です。スズシロという名前は、「スズ」は涼しいのスズ、「シロ」は根のすがすがしい白というのが語源だと言われています。スズシロのは白もしくは淡い紫色の花びらをたくさんつけ、畑を可憐に彩ります。
スズシロもスズナ同様に葉の部分の方が栄養が豊富。ビタミンA・Cとカルシウムを多く含み、風邪予防や美肌効果に優れています。また根の部分は薬効もあり、咳止めとして利用されます。
秋の七草のはじまり
春の七草はどれも栄養分を豊富に含んでいて、健康のため、そして美容のために食されていることがわかりました。1月7日の朝にいただく「七草粥」は、お正月にたくさんのご馳走を食べて疲れた胃腸を労わるように食されていますよね。
しかし秋の七草は食する習慣はなく、観て楽しむというもの。
秋の七草と称されるのは、ハギ・オバナ(ススキ)・クズ・ナデシコ・オミナエシ・フジバカマ・アサガオの7種の草本で、どれも日本の秋の花を代表するものですよね。
秋の七草の由来は、奈良時代の歌人・山上憶良(やまのうえの おくら)が詠んだ次の二首の歌が始まりだとされます。
秋の野に 咲きたる花を指折りかき数ふれば 七種の花
萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝貌の花
お気づきの通り、この二首の歌は最初に「七種の花が秋に咲く」と詠い、二首目ではその草花の種類を挙げていることから、この歌に登場する七つの草花が秋の花の代表として親しまれるようになったと考えられています。
秋の七草で歌われている「朝貌の花」とは、諸説がありますが、桔梗(ききょう)とされることが多いのだとか。また江戸時代には「新秋の七草」そして昭和初期にも「新七草」が発表されたとされています。また「薬用秋の七草」と呼ばれるものが選ばれたこともあるそうです。
秋の七草の種類
[秋の七草] ハギ
鮮やかな赤紫色の花を咲かせるハギは、晩夏から秋にかけて、全国各地の日当たりの良い山野で目にします。ハギの花は小豆の形をしていることから「萩餅」、そして「おはぎ」という呼び方になったのだとか。
ハギは密集した枝にこまやかな、そして鮮やかな赤紫色の花をたくさん咲かせ、風に揺れる様は風情があり、『万葉集』をはじめとする和歌や俳句に最も多く詠まれていて、古くから日本人に親しまれてきた植物であることがわかります。
[秋の七草] オバナ(ススキ)
オバナは花の形が動物の尻尾に似ていることから、こう呼ばれるようになったと言われています。「ススキ」の方が耳慣れている人が多いのではないでしょうか。
ススキも『万葉集』などの和歌や、『源氏物語』、『枕草子』といった日本文学の中にも数多く描写されています。野生に群生する黄金に輝くススキが秋風にたなびく様子が、「秋」のイメージとして頭に浮かぶ人も多いのではないでしょうか。十五夜の飾りとしても親しまれていますよね。これは悪霊や災いなどから収穫物を守り、翌年の豊作を願う意味が込められているといわれています。
[秋の七草] クズ
鑑賞して楽しむ秋の七草の中では珍しく、クズは「葛湯」・「葛餅」・「葛きり」などとして広く食されています。またクズの根の部分は解熱や咳止めの効果が高いとして、風邪のひきはじめに効果抜群とされる漢方薬「葛根湯(かっこんとう)」の成分の一つであることは、ご承知の方も多いのではないでしょうか。
マメ科の植物であるクズは下方から薄紅色の花を咲かせ、まわりの木々をつるでおおってしまう程、強い生命力に恵まれた秋の七草の一つです。
[秋の七草] ナデシコ
「ヤマトナデシコ」という言葉は、日本女性の清楚さを表現する際に用いられます。このヤマトナデシコとは、ナデシコ科の多年草で、鮮やかなピンク色の花を咲かす「カワラナデシコ」のことです。
「撫でし子」と語意が通じることから、ナデシコはしばしば子どもや女性にたとえられ、古くから和歌や随筆などに多く参照されてきました。清少納言は随筆『枕草子』の中で、ナデシコの美しさは草花の中で第1級品であるとして、この秋の七草を讃えています。
[秋の七草] オミナエシ
オミナエシは日当たりの良い山地や草原に、黄色い小さな花を咲かせて秋の訪れを伝えます。美女を圧倒する花の美しさゆえに「女郎花(オミナエシ)」という名で呼ばれるようになったのだとか。紺碧の空にオミナエシの鮮やかな黄色のじゅうたんが広がる様子は、万葉の昔から多くの歌や句にも詠まれ、人々がその美しさに魅了されたことを伝えています。
オミナエシの根と全草には、解毒・鎮痛・利尿などの作用があるとされ、漢方にも用いられてきました。
[秋の七草] フジバカマ
フジバカマはキク科の多年性植物です。かつては日本各地の河原などに群生していましたが、最近では生育するような平地の自然草地が、ほとんど姿を消してしまったため、自生のフジバカマを目にする機会は減少しています。この現状から、環境省のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)では、フジバカマを「準絶滅危惧(NT)種」に指定しています。
淡い紫色の花を株いっぱいに咲かせるフジバカマは、中国では「香水蘭」「蘭草」と称され、ポプリとして古くから利用されてきました。現代でも、この香りはアロマセラピーなどに活かされているといいます。
[秋の七草] アサガオ(キキョウ)
キキョウは日当たりのよい山野に生える、キキョウ科の多年草です。かつては日本全国に分布していましたが、近年では自生株は減少傾向にあり環境省レッドリストの「絶滅危惧II類 (VU)」に指定され、絶滅が危惧されています。
「桔梗(ききょう)」の字が「吉更=さらに吉」に通じるとして、キキョウは家紋としての人気が高かったとされます。戦国時代を生きた武将、明智光秀の家紋が「桔梗紋(ききょうもん)」であったことは有名ですよね。
まとめ
「春の七草」・「秋の七草」ともに、なかなか自生のものを見かけることはなくなっているので、ますます七草の名前を覚えるのは難しくなりそうですよね。
長きに渡って日本人の生活に根付いてきた、1月7日に「七草粥」をいただく習慣も、後世に伝えていきたいものです。
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