【茶道】茶席の掛け軸にはどんな意味があるの!? 一期一会、日々是好日って?
絵画から墨蹟へ
千利休の侘び茶の思想を表している『南方録(なんぽうろく)』には、「掛物ほど第一の道具はなし。客亭主共に茶の湯三昧の一心得道の物也。墨蹟を第一とす。其の文句の心をうやまい、筆者・道人・祖師の徳を賞玩する也。」とあります。
つまり、書き手の筆跡が残る墨蹟を鑑賞することで、その人徳を身近に感じることができると考えられていたのです。
その墨蹟を茶席に初めて掛けた人物は、侘茶の創始者である村田珠光(むらたじゅこう)だと言われています。それまでは、主に絵画が掛けられていた茶席に、中国の有名な禅僧である圜悟克勤(えんごこくごん)の墨蹟を飾り付けました。
この墨蹟は、修行の証として、師匠である一休宗純(いっきゅうそうじゅん)から譲り受けたもので、珠光は一休和尚への敬慕の念を込めて、この掛け軸を茶席に飾り始めたのだと考えられています。
フレーズを抜き出した一行物が茶席の主役に
その後、千利休が自分の禅の師匠である春屋宗園(しゅんおくそうえん)の「一行物(いちぎょうもの)」を掛けてから、在世の和尚の掛物を掛けるという慣習も広まっていきます。
一行物とは、禅語などの一部分だけを取り出して掛け軸に書いたもので、分かりやすく使い勝手も良いことから、江戸時代以降、茶席の掛け軸は、この一行物がメジャーになっていきます。
お茶会に呼ばれたお客さんは、茶席に入ると、まず初めに床前に進み、掛け軸を拝見することになっているので、一行物はその日の茶会のテーマを表す道具として、大変重宝されました。
また、一行物のなかには、春を表現する「花」や夏を示す「白雲」、年末を連想させる「無事」など、時候をイメージさせる言葉も多くあり、季節感を大事にする茶の湯と相性が良かったのです。
一期一会
誰もが知っている「一期一会(いちごいちえ)」。これは、若干フレーズが異なりますが、千利休の「路地ヘ入ルヨリ出ヅルマデ、一期ニ一度ノ会ノヤウニ、亭主ヲ敬ヒ畏(かしこまる)ベシ」が初出となっています。
それから時代は下り、江戸時代末期になると、大老・井伊直弼(いいなおすけ)が茶道の心得を表した書物のなかで、一期一会の大切さを説いています。
再び同じ出会いはないと考え、客も亭主も双方が誠意をもって交わるべきであるという教えは、いつの時代にも当てはまるメッセージなのではないでしょうか。
喫茶去
「喫茶去(きっさこ)」も茶席で良く使用される掛物です。
最後の「去」の字は喫茶を強調した助辞であり、去るという意味ではなく、全体で「お茶をおあがりなさい」といった意味になります。
誰にも「喫茶去」と答える中国の禅僧のエピソードがもとになった一行物で、どんな茶会にも飾りやすいことから、目にする機会が多い墨蹟となっています。
日々是好日
映画のタイトルにも採用されたことで有名になった「日々是好日 (にちにちこれこうにち・にちにちこれこうじつ)」。
これは、中国の禅僧、雲門文偃(うんもんぶんえん)の悟りの境地を表す言葉として、『碧巌録(へきがんろく)』という書物に掲載されています。
分かりやすく言えば、「毎日が良い日だ」という意味になりますが、当然、人生は楽しいことばかりではなく、悲しい出来事や辛い経験もあります。
それでも、すべてを受け止めて、毎日を良い日だと言い切れる心境に達することこそ、この墨蹟に込められたメッセージになっています。
まとめ
お茶会で外すことのできない掛け軸は、茶席のテーマを示す非常に大事な道具です。
難しい言葉や達筆で読めない字もなかにはありますが、代表的な一行物を知っておくことで、お茶会の楽しみ方が、一層深まるのではないでしょうか。
ぜひ、この機会に、いろいろな一行物を調べてみてください。
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