【徒然草】鎌倉末期の名エッセイスト! 兼好法師の「心に効く」名言を読んでみよう
この記事の目次
兼好法師の生涯
吉田兼好(卜部兼好)は鎌倉時代末期、代々吉田神社の神職を務める卜部家に生まれたと言われています。
その能力を買われ、朝廷に出仕していた兼好ですが、政治の混乱の中で出世の道を絶たれてしまうことに。
そこで兼好は出家して、世捨て人として自由気ままに生きる道を選びます。
都から離れ方々を旅する中、兼好法師は世に対する鋭いまなざしや美的感覚から、様々な和歌や随筆を書き、文化人として知られるようになります。
彼が50歳ごろまとめたとされる徒然草は、世の中が混乱していた鎌倉末期〜南北朝時代に、明日はどうなるか分からないという「無常観」について書いた作品として知られています。
有名な冒頭
「つれづれなるまゝに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」
まずはこの有名な冒頭の一文について、簡単におさらいしておきましょう。
作品のタイトルにもされている「つれづれなるままに」とは「やるべきこともなく、所在のなさにまかせて」という意味。
手持無沙汰で、ものさみしい暮らしの中で、一日中思いついては消えていく話を書き留めておく、という意味の冒頭部分には、既に徒然草全体を通して語られる「無常観」が表れています。
また、書き留めているうちに「ものぐるほしけれ(気がおかしくなりそう)」となった、という締めには、兼好法師らしい独特のユーモアも感じられますね。
徒然草の名言
ここからは徒然草の名言とその意味の紹介、そして段の内容について解説します。
第73段「嘘」について
「世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり。」
[意味] 世の中で語り伝えられていることは、本当のことは特に面白くないからだろうか、ほとんどが嘘ばかりだ。
第73段で兼好法師は「真偽を確かめずに話を鵜呑みにする愚かさ」について批判しています。続けて、庶民の話は大げさなものが多いが、教養のある人は疑わしい話は鵜吞みにしないものだ、と皮肉を交えながら論じています。
ネット社会になり、デマやフェイクニュースが溢れている現代。正しい情報を見極める力を付けることこそが教養なのだと、兼好法師に鋭く指摘されているかのようです。
第92段 怠け心について
「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。 」
[意味] 弓の初心者は一度に2本の矢を持ってはいけない。2本目を当てにして、最初の矢をおろそかにしてしまう気持ちが生まれてしまう。
この言葉は兼好法師のものではなく、とある弓の師匠が語ったものです。兼好法師はこの言葉を、芸事を修めるための心がけとしてだけではなく、人生の教訓になるものだとして論じています。
何かに成功したいならば、今目の前のことに集中しなければ始まりません。「今日は忙しいからやめよう」と言い訳するのは怠け心の表れだと、兼好法師は批判します。そして弓の師匠となるような「成功した」人から見れば、そんな怠け心はすべてお見通しなのです。
第110段 失敗を想定することについて
「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。」
[意味](双六は)勝とうと思って打ってはいけない。負けないようにと思って打つべきだ。
これは、ある双六(古代中世の日本で流行したボードゲーム)の達人が語った「ゲームに勝つ方法」です。
この文は「いづれの手かとく負けぬべきと案じて(どの手が早く負けてしまうだろうかと考えて)」いる、と続きます。つまりその道の達人であっても、失敗することを常に考えているということです。
物事を成し遂げるための方法は1つではありませんが、失敗のパターンはそれほど多くはありません。失敗を常に想定しておくことが大切なのです。
第137段 想像することの豊かさについて
「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。」
[意味] 桜の花は満開のときを、月は少しのかげりもない満月だけを見るものだろうか。
兼好法師の美意識について書かれた有名な一節です。
この段で兼好法師は、完成されたものだけを愛でるのではなく、移ろいゆく過程を想像し楽しむことが、美しさを理解するということなのだと論じています。
今にもほころびそうな花のつぼみや、傾いていく月の様子に、古来から日本人は想像をかきたてられ、心を動かされてきました。現代でもSNSを覗けば「完成された」美しい瞬間を切り取った写真に溢れています。一方で、移りゆく美を愛する心も忘れずにいたいものです。
第188段 人生の短さについて
「一事を必ず成さんと思わば、他の事の破るるをもいたむべからず。人の嘲りをも恥ずべからず。万事に換えずしては、一の大事成るべからず。」
[意味] 1つのことを成し遂げようと思うならば、他のことが不成功に終わるのを嘆いてはいけない。他人の嘲笑を恥じてはいけない。あらゆることを引き換えにしなければ、思いが成就するはずはない。
色々なことに挑戦したくても、中途半端に手を出してしまうと1つのことも極めることができないと、兼好法師は述べています。
なぜなら人の一生はあまりに短いから。その中で何かを成し遂げたいと思うならば、悠長に構えず今すぐに目の前の1つのことに集中して取り組むべきだと綴っています。
兼好法師が生きた時代は、政情不安によって明日の命も分からないという状況が続いていました。「今できることは何か」を常に問いかけて行動するべきという言葉は、現代の私たちにとっても心に響くものですが、当時はより切実なものだったのかもしれません。
まとめ
徒然草は全244段のエピソードがありますが、どの話もバラエティに富み、兼好法師の知性やユーモアを感じることができます。
短いものでは1分も掛からず読むことができるものもあり、どの話から読んでも楽しめます。原文だけでなく対訳がついていれば、古文の読み方に自信がない方も、気軽に読み進めることができますよ。
ご紹介した兼好法師の「名言」が気になったら、ぜひ徒然草を手に取ってみてください。
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