【高精細複製品】消失部分を復元!「国宝 花下遊楽図屏風」日本の文化財活用プロジェクト[文化財活用センター]
この記事の目次
国宝「花下遊楽図屏風」
国宝 花下遊楽図屏風(左隻) 狩野長信筆 江戸時代17世紀 東京国立博物館蔵
国宝 花下遊楽図屏風(右隻) 狩野長信筆 江戸時代17世紀 東京国立博物館蔵
作品
花下遊楽図屏風は、江戸時代のはじめ頃のお花見の様子を描いた屏風です。
踊っているのは、最新のファッションに身を包んだ女性たちで、刀を腰にさしているのは男装の一団です。歌舞伎の源流となった当時流行の阿国(おくに)歌舞伎の伊達姿を写していると思われます。
足裏を見せて踊る人物の描写は、三味線に手拍子も加わって、ほがらかな歌声まで聞こえてきそうなシーンです。
自然を愛で慈しみ、春を謳歌する日本人の心を見事にとらえ、現代に生きる私たちも心がおどり、歌いたくなるような作品です。
国宝 花下遊楽図屏風(左隻部分) 狩野長信筆 江戸時代17世紀 東京国立博物館蔵
作者
作者は、狩野長信(1577-1654)と知られています。
京都を中心に活動していた狩野派、狩野永徳の末弟にあたる長信は、徳川家康より駿府(静岡市)に召しだされ、その後初めて江戸に下りました。
長く江戸幕府の御用をつとめますが、現存する作品が少ないため、本作は貴重な基準作といえます。
消失
大正12年(1923)の関東大震災のとき、花下遊楽図屏風の右隻中央2扇分が失われました。
現在は消失した部分に無地の紙を補って屏風に仕立てられ、これまでの展示ではこの作品のハイライトでもある女性たちの語らいの場面をお見せすることはできませんでした。
国宝 花下遊楽図屏風 狩野長信筆 東京国立博物館 本館国宝室にて展示(2019年)
花下遊楽図屏風の消失部分復元
花下遊楽図屏風の完全な姿を唯一伝えるのが、(1911(明治44)年頃に撮影されたガラス乾板写真(東京国立博物館蔵)です。
花下遊楽図屏風を撮影したガラス乾板写真 明治44年頃 東京国立博物館蔵
白黒画像データ制作
ガラス乾板写真から高解像度スキャナーでデータを取り、原寸大に拡大
国宝 花下遊楽図屏風(右隻) 狩野長信筆 江戸時代17世紀 東京国立博物館蔵 ※白黒部分はガラス乾板写真の合成、彩色前
原寸大まで画像を拡大するために、高解像度スキャナーにより画像データを取得しました。
スキャニングは右隻全体を2400ppiで1回、消失部分のみを1200ppiで1回、さらに4800ppiで7回行い、それらのデータを重ねて画像をクリアにする処理を施し、原寸大の印刷に耐える高解像度の白黒画像データを制作しました。
色の再現
色の根拠がある部分のみ、デジタル処理によって色を再現
【高精細複製品】国宝 花下遊楽図屏風(右隻) 狩野長信筆 和紙に印刷 2020年制作 東京国立博物館蔵
色のバランス
最初は、今回撮影(キヤノン株式会社)した現存部分のカラーデータをもとに、デジタル処理による色変換を試みましたが、消失部分のデータと現存部分のデータのカラーバランスやコントラストなどが異なるため、うまくいきませんでした。
そこで、現存部分のカラーデータを近似値の白黒スケールにいったん変換し照合することによって、消失部分の色のバランスを明らかにすることができました。
この処理によって桜花や幹、地面など、現存する画面に同一のモチーフがある部分については、デジタル処理による色の再現が可能になりました。
色の系統
花下遊楽図屏風抜写 溝口禎次郎筆 明治時代 東京国立博物館蔵
人物の衣装など、固有のモチーフについては色のバランスはわかっても、どの系統の色なのかまでは現在の技術ではわかりません。
わずかに残されていた手がかりは、明治時代にこの屏風の部分を模写した「花下遊楽図屏風抜写」にある、地赤・白・ロク(緑)などの書き込みです。
そこで、白黒の画像データから、映画やテレビ、CMなどにも使用されているRayBrid(レイブリッド)という技術を使用してモチーフを切り出し、色の根拠がある部分のみ彩色を施しました。
花下遊楽図屏風抜写(部分) 溝口禎次郎筆 明治時代 東京国立博物館蔵
今回の復元複製については、あくまで科学的な数値と記録に基づくデジタル処理による色の再現にこだわった結果、一部は白黒のまま残すという、今までに無い形となっております。
初公開!「花下遊楽図屏風」
失われた部分を復元した「花下遊楽図屏風」は、高精細複製品を中心に、プロジェクションマッピング映像と音響演出による幻想的な空間を限定公開されました。
*この展示は、特別展「体感!日本の伝統芸能」の一部として企画されましたが、新型コロナウイルス感染防止のため、残念ながら開催中止となったことに伴い、本コーナーのみ、2日間限定で公開したものです。
展示映像
▼高精細複製品によるあたらしい屛風体験「国宝 花下遊楽図屛風」
原本撮影・屏風制作:キヤノン株式会社・京都文化協会
ガラス乾板スキャニング:アイメジャー株式会社
復元部分CG制作:株式会社エム・ソフト
プロジェクションマッピング:有限会社プロトタイプ
共同研究プロジェクト
[高精細複製品を用いた日本の文化財活用のための共同研究プロジェクト]
高精細複製品「国宝 花下遊楽図屏風」は、独立行政法人国立文化財機構 文化財活用センターとキヤノン株式会社が2018年度より行なっている「高精細複製品を用いた日本の文化財活用のための共同研究プロジェクト」で制作しました。
オリジナル作品を劣化から守りつつ、多くの方に日本古来の貴重な文化財に親しんでいただくことを目的として、キヤノン株式会社ならびに特定非営利活動法人京都文化協会が共同で行なっている「綴(つづり)プロジェクト」(正式名称:文化財未来継承プロジェクト)の技術を使用しています。
[ぶんかつ&キヤノンプロジェクト]
https://cpcp.nich.go.jp/modules/r_free_page/index.php?id=29
文化財活用センター
文化財活用センターは国内外のさまざまな人が、日本の文化財に親しむ機会を拡大するため、2018年7月、国立文化財機構のもとに設置された組織です。
愛称は「ぶんかつ」。
文化財を通じて豊かな体験と学びを得ることができるよう、文化財を活用した新たなコンテンツやプログラムの開発を行なっています。また、国立博物館の収蔵品の貸し出しを促進する事業や、文化財のデジタル情報の公開、文化財の保存環境に関する相談窓口を開設しています。
[ぶんかつWEBサイト]
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