【能と狂言の違いはこれだ!】能はミュージカル!狂言はコント!
能と狂言をまとめて能楽
Photo credit: Ein_keep going via Visualhunt / CC BY-ND
能楽のはじまり
能楽の始まりは、日本古来の演劇・伎楽や物まねや曲芸などの散楽が民衆の間に広まり、能楽の原型となる猿楽がつくられたと言われています。猿楽は、民衆の間で物まねや笑い芸を中心に発展し、他の芸能とも交わり、結崎儀式的祝言曲としても、寺社や祭礼にも取り入れられています。
観世流・世阿弥の登場
当時、猿楽が盛んだった大和(奈良県付近)では、大和四座といわれる結崎座、坂戸座、外山座、円満井座が力をもっており、中でも、結崎座の観阿弥は、猿楽と舞を組み合わせ新たな芸能を作り出します。観阿弥の子・世阿弥は芸能を受け継ぎ、現在の能とほぼ同じ形を作り出しています。後々、大和四座と江戸時代に公認を受けた喜多流が、能の主役の流派となります。(結崎座→観世流/坂戸座→金剛流/外山座→宝生流/円満井座→金春流)
猿楽から能・狂言
猿楽には、歌舞劇(ミュージカル)の要素と喜劇(コント)の要素を含んでおり、観世流・世阿弥により歌舞劇部分が能となり盛り上がりをみせるようになり、同じく喜劇部分が狂言として盛り上がっていきます。江戸時代に入ると狂言役者も幕府や藩に抱えられるようになり大蔵流と和泉流の流派が出来上がります。
猿楽から能楽へ
猿楽から生まれた「能」と「狂言」は、明治時代に能楽と呼ばれるようになり、能や狂言が成り立つ前からあった「式三番」を含め、3種の芸能を能楽と言います。当時は、屋外で演じることが多かった能が稽古の舞台で演じられるようになり、後々、能楽堂へと整備されいきます。
能・狂言を演じる能楽師
能舞台。手前の柱が脇柱、向かって左が目付柱、松の絵があるのが鏡板。
舞台から下手奥に向かい橋懸(はしがかり)が見え、その奥に揚幕が見える。 出典:Wikipedia
能楽堂の舞台上にいる人たちは全てが能楽師です。
職種は、能の主役を受け持つ「シテ方」能の脇役「ワキ方」楽器を担当する「囃子方」狂言を受け持つ「狂言方」の4つに分かれています。
シテ方
シテ方には、能の主役を受け持つ「シテ」と主役の演技を助ける助演役「シテツレ」地謡担当がいます。シテは「仕手」と書きます。
シテ方の流派 (観世流・金剛流・宝生流・金春流・喜多流)
ワキ方
ワキ方は、能の主役と対峙する脇役「ワキ」と脇役の演技を助ける助演役「ワキツレ」がいます。
ワキ方の流派 (宝生流・福王流・高安流)
囃子方
囃子方は、能・狂言のお囃子を担当しています。「笛」「小鼓」「大鼓」「太鼓」の4つに分かれます。それぞれ流派があります。
笛方の流派 (一噌流・森田流・藤田流)
小鼓方の流派 (幸流・幸清流・大倉流・観世流)
大鼓方の流派 (葛野流・高安流・石井流・大倉流・観世流)
太鼓方の流派 (観世流・金春流)
狂言方
狂言上演の主役は「シテ」といい、シテに対する相手役は「アド」といいます。狂言の上演と能の進行を助ける助演役「アイ」がいます。能の中に登場する狂言方のアイを間狂言とも言います。
狂言方の流派 (大蔵流・和泉流)
能とは
広島県廿日市市の厳島神社で演じられる能 出典:Wikipedia
能ってどんなもの
ミュージカルやオペラのような歌舞台です。亡霊や神など「この世ならぬ者」を主役とする演目や、歴史上の人物を登場させた演目があります。源平合戦の公家や武将、小野小町や静御前なども登場します。シテ方は能面を使用します。
能のストーリー展開
ストーリー構成は、大きくふたつに分けられます。ひとつは「この世ならぬ者を主役にする」亡霊や精霊などが人間の体を借りてあらわれ、後に正体をあかす話です。もうひとつは「生きた人物を主役にする」人探しや決闘の設定で登場人物の身の回りで起こったことを描きます。
初心者にオススメ
土蜘蛛(つちぐも)
重い病に悩む源頼光の枕もとに見知らぬ僧侶が訪れます。頼光が正体を怪しんだ途端、千筋の糸を投げかけ化け物(土蜘蛛)となり襲います。そこに駆けつけた頼光の家来の独武者が退治するという話です。千筋の糸を繰り出すシーンは見どころです。
シテ・僧侶/土蜘蛛の精 シテツレ・源頼光 ワキ・独武者
https://twitter.com/jinmusai/status/857420582811451392
▼「土蜘蛛」の一場面
狂言とは
狂言「水掛聟(みずかけむこ)」 出典:Wikipedia
狂言ってどんなもの
庶民の日常をコメディタッチで描いた喜劇です。登場人物に特定される人物はおらず、大名や山伏など身分や立場を示す役柄が多いです。人物の他にもキツネや牛、馬などの動物キャラクターもおり、キノコや蚊などの役も登場します。基本、素顔で演じますが、人物でない役には狂言面を使用します。
狂言のストーリー展開
狂言のストーリーは、「うっかり間違える」「分かっちゃいるけどやめられない」など登場人物の失敗を描くものが多いです。言葉遊びやおめでたい雰囲気だけの演目もありますが、一部、考えさせる演目もあります。
初心者にオススメ
棒縛(ぼうしばり)
留守をたのむと悪さばかりする太郎冠者と次郎冠者。主人は次郎冠者の腕を棒に縛り付け、太郎冠者の腕を後ろ手に縛って出かけてしまいます。しかし、ずる賢い二人は、縛り付けられたまま酒盛りを初めてしまします。すっかり出来上がった頃、主人が帰ってきて、後ろから静かに忍び寄ると…。何とかして酒盛りをしようとする滑稽さがおもしろいです。
シテ・次郎冠者 アド・太郎冠者 アド・主人 ※和泉流は、シテ・太郎冠者 アド・次郎冠者です。
May 7, 和泉流狂言「棒縛」で爆笑.こどもと震災復興国際シンポジウム in 相馬開幕之圖 → https://t.co/Sooh20sjV8 pic.twitter.com/3KZZDqj7XN
— ryugo hayano (@hayano) May 7, 2016
▼寶満神社奉納能楽「新開能」狂言 棒縛り
式三番とは
春日神社 (篠山市)に奉納される「翁」 出典:Wikipedia
式三番(しきさんばん)ってどんなもの
式三番は「能にして能にあらず」と言われ、五穀豊穣を祈る神事として行われる演目です。現在は、翁の名で呼ばれます。
式三番(翁)のストーリー展開
翁は、能の役者と狂言の役者が、千歳、翁、三番叟の三人が順に祝いの舞をまいます。若者の象徴である千歳の舞から始まり、集落の長の象徴の翁の舞が行われます。舞台上で翁の面をつける瞬間から神へと変わります。最後は、農民の象徴である舞、三番叟が行われ終了となります。
▼八坂神社 初能奉納(観世流)
能と狂言の違い
能は、主役が能面と呼ばれる面を付け、亡霊や精霊などのこの世ならぬ者を主役にする話や歴史上に登場する生きた人物を主役にした話を題材とされる舞台です。台詞は「〜にて候」という文語調(書き言葉)になります。狂言は、基本素顔で演じ身分や立場のわかる人物や人物以外の生き物などが主役で、日常に起こる出来事を題材とする喜劇です。台詞は「~でござる」という口語調(話し言葉)になります。
舞台を彩るもの
能面
能面は大きく分けて5種類あります。「翁」「尉」「鬼」「男」「女」の5種類で、最も古いタイプが「翁」で、式三番などで神事の舞として使用されます。「尉」は、老人を表し、品がよく神の化身や強く強そうな老人の面などがあります。「鬼」は、怨念をもつ亡霊や強い怒りを持つ鬼神の面などがあります。「男」は、少年から壮年の男性の面になります。「女」は、若い女性から老婆までの面で、嫉妬の度が増した橋姫や鬼の形相になった般若などもあり多彩です。現在、伝えられている能面は200種類ほどあり演目によって使い分けられています。
笑尉(わらいじょう)
笑いをうかべた老人の面
大ベシミ
口をへの字にし、全てを威嚇する鬼の面
近江女(おうみおんな)
成熟した女、情と執着心を持つ女の面
泥眼(でいがん)
菩薩や成仏した女の面。または、執念をもつ女の面
能装束
能の装束というと絢爛豪華なイメージがありますが、もともとは屋外で演じられていたこともあり質素な装束であり、式楽となってから華やかな装束となっていきます。能装束には、様々な色糸で模様が織り出され最も豪華な小袖装束の唐織や絹の単衣で地色が白・紫・緋・萌黄・浅黄などある広袖の長絹、能独自の装束で薄い広袖の水衣など20種類ほどあり、色や生地、着付け方などで演目や主役のキャラクターに合わせて使用します。
お囃子
能には「笛」「小鼓」「大鼓」「太鼓」の4種類の楽器が使用されています。合わせて「四拍子」と呼びます。お囃子は、単なる伴奏者ではなく、出演者との間合いをはかり、舞台上でのリズムを作り出し、音のない「間」を作り独特の緊張感や雰囲気作りをする重要な演者になります。
笛(ふえ)
数本の竹を継いで強化した横笛です。一般的な横笛と同じく息を吹き込む口と7つの指孔がありますが、中央に喉と呼ばれる細い竹がはめこまれています。
小鼓(こつづみ)
馬皮と桜の木を調緒と呼ばれる麻ひもで組んだ楽器です。温度や湿気の影響を受けやすく、調子紙という和紙を湿らせて裏の革へ貼り付けたり、息を吐きかけるなどして音を調節します。
大鼓(おおつづみ)
小鼓と同じく馬皮と桜の木を調緒で組んだ楽器です。硬質な音を出すために舞台が始まる前から炭火で革をよく乾燥させて演奏します。
太鼓(たいこ)
牛皮と欅を調緒で固く締め上げた楽器です。舞台上では、専用の台に載せて2本の撥で演奏します。太鼓が入る演目は3分の1ほどとなります。
まとめ
元々ひとつだった猿楽が、時の流れで、能、狂言、式三番とわかれ、そして、総称して能楽と呼ばれるようになったんですね。
能は、亡霊や神、歴史の登場人物を演じた歌舞劇で、狂言は、日常生活におこる喜劇であるという違いがわかり、能に使用される面、装束やお囃子は、舞台をより良く彩るための能の一部でという事もわかりましたね。
少し分かったところで、能楽を観にいてみるのもいいですね。シテ方はどの人とか演目はなんだろう?四拍子の間のとり方とか気にしてみるのもいいですね。
噂ですが、優れた能からはアルファ波が出ているらしく眠りについてしまっても仕方がないそうです。その際は、イビキに注意してくださいね。(あくまでも噂です^^)
わつなぎオススメ記事 >>【雅楽】五人囃子の笛太鼓 ♪ メンバーの4人が楽器。あとひとりは?[五人ばやしコンサート情報あり]