【シネマ歌舞伎】仁左衛門、玉三郎の黄金コンビ!華やかで美しく幸福感にあふれる名舞台『廓文章 吉田屋』[上映延長決定]
ものがたり
大坂新町にある吉田屋の店先。
みすぼらしい姿の若い男が現れ、主人の喜左衛門に逢わせてくれと言いますが、店の者は追い払おうとします。実はこの男は吉田屋の上客で、豪商・藤屋の若旦那・伊左衛門でした。放蕩が過ぎて勘当されひっそりと暮らしていたのですが、恋人の傾城夕霧が伊左衛門のことを心配して病気になったと聞き吉田屋までやってきたのでした。
喜左衛門と女房おきさは伊左衛門を温かく迎え入れますが、なかなか夕霧のことを言い出さない夫婦に不機嫌になったり、病が癒えた夕霧がちょうど吉田屋に来ていると聞くと喜んだり、恋敵の阿波の大尽の座敷にいると聞いてまた不機嫌になって帰ろうとするなど一喜一憂する伊左衛門。
夕霧が来るのを待って座敷に一人残された伊左衛門はあれこれ思い悩みながらも、結局はこたつで寝て待つことに。まもなく夕霧が現れますが、心とは裏腹に伊左衛門は夕霧を邪険に扱ってしまいます。
ここで太鼓持ちが現れて二人の仲を取り持ちます。ようやく素直に夕霧を受け入れるところへ、藤屋から伊左衛門の勘当を許す知らせと、夕霧の身請けの金も届き、めでたく幕となります。
解説・見どころ
江戸時代、大坂新町の廓に容貌に優れ、技芸に秀でた夕霧という傾城がいました。
延宝六年(1678年)に彼女がこの世を去ったことを偲び、様々な作品が作られました。中でも近松門左衛門作の世話浄瑠璃「夕霧阿波鳴渡ゆうぎりあわのなると」は集大成と言われる作品で、その一部を脚色したのが「吉田屋」の通称で知られる「廓文章」です。
豪商藤屋の若旦那伊左衛門は傾城夕霧に通い詰めたため家を勘当され、紙衣(※1)で新町へやってきます。編笠姿の伊左衛門のはんなりとした風情や足取り、吉田屋主人の喜左衛門とのやり取りで、身なりは貧しくても心は大店の“ぼんぼん”のままという人柄を見せます。座敷に通された伊左衛門が意地と恥ずかしさから夕霧の名を言い出せない様子や、夕霧が他の客の座敷に出ていることに拗ねて帰ろうとし吉田屋夫婦が止める様子など、和事ならではのおかしみを見せる場面は見所です。
夕霧は登場する場面が見せ場の一つです。伊左衛門のことを思い病に臥せっていた病み上がりの夕霧は、松の太夫の品格と艶やかさに加えて、伏し目がちな視線や翳りのある表情の「憂い」で何とも言えない色気を感じさせます。 痴話げんかを始めてしまう伊左衛門と夕霧の間をとりなす太鼓持(遊興の席を賑やかにするため取り持ちをする男)がからむのは松嶋屋独自の演出です。その他にも伊左衛門が花道に登場する際の差し出し(※2)や竹本と常磐津の掛け合いなど、松嶋屋の演出は随所に見られます。
父・十三代目の最高の当たり役と言われ、仁左衛門襲名公演でも上演された「廓文章」は松嶋屋の家で代々大事にされている演目の一つです。
(※1)紙衣(かみこ)・・・「紙を貼り合わせた粗末な着物」を表しており、元は高貴な人物が落ちぶれた境遇であることを表す衣裳。実際は布の衣裳だが、紫と黒のつぎ合わせに文字が模様として描かれているのが特徴で、反古紙や手紙を布代わりに使っていることを表す。
(※2)差し出し(面あかり)・・・俳優が花道に登場する際に、黒衣が長い柄の先に建てたロウソクで照らしその人物を浮かび上がらせる演出。
シネマ歌舞伎『廓文章 吉田屋』
2020年1月3日(金)より東劇ほか全国公開
2月6日まで上映延長!
(C)松竹