【お香】香りを“聞く” 香りの歴史と癒しの力
お香の歴史
日本でお香が使われ始めたのは、仏教が伝来した飛鳥時代と考えられています。邪気を払い、仏前を清めるものとして重宝され、寺院儀式の重要な道具となりました。
平安時代になると、お香は貴族文化の中で大きく発展します。人々は自ら香りを調合し、衣や部屋に香りを焚き染めて日常に取り入れました。香りの美意識は、上流階級のたしなみとして育まれていきます。
その後、武士の台頭とともに好まれる香りにも変化が生まれます。人工的に調合した香りよりも、香木そのものが持つ自然な香りを鑑賞する文化が広まり、現在まで続く「香道」の基礎が形づくられました。
香りを“嗅ぐ”のではなく“聞く”と表現する「聞香(もんこう)」の精神は、室町幕府8代将軍・足利義政の東山文化の中で確立され、茶道・華道と並び、日本文化を代表する芸事として受け継がれています。
主なお香の種類
お香にはさまざまな形がありますが、歴史的にも現代的にもよく使われる「香木」「練香」「線香」の3つを紹介します。
香木(こうぼく)
木そのものが香りを放つもので、代表的なのは沈香(じんこう)と白檀(びゃくだん)です。
沈香
ジンチョウゲ科の樹木に樹脂が沈着し、長い年月を経て香りを持つようになったもの。水に沈むことから「沈香」と呼ばれ、なかでも最高品質は「伽羅(きゃら)」として特別視されます。
白檀
甘く落ち着いた香りが特徴で、インドやインドネシアで産出します。常温でも香るため、香木としてだけでなく仏像彫刻や扇子の骨などにも使われてきました。
練香(ねりこう)
平安貴族が衣に香りを染み込ませた「薫物(たきもの)」を源流とするお香です。粉末にした香木や香原料にはちみつなどのつなぎを加え、丸く練り上げて作ります。
茶の湯では冬の炉にくべて使用され、静かで清らかな香りが空間を整えてくれます。
線香(せんこう)
現代でも最も身近なお香です。原料を混ぜ合わせて棒状にしたもので、均一に燃えやすく扱いやすいのが特徴です。
仏事に用いられる伝統的なものだけでなく、フレグランス系の香りなど種類は幅広く、日常のリラックスアイテムとして広く親しまれています。
リラックス効果
日々のストレス解消を目的にお香を焚く人も多いのではないでしょうか。
香りを嗅ぐと副交感神経が優位になり、心と体に落ち着きが生まれます。香りの成分は鼻から吸収されると嗅神経から嗅球へ伝わり、そこから脳の視床下部へ信号が送られます。視床下部は自律神経を司るため、副交感神経が働いて心拍が整ったり、消化が促進されたりと、体がリラックスモードへ移行していきます。
静かな時間をつくりたいとき、眠りにつく前、気分を切り替えたいときなど、香りは心のスイッチにもなってくれます。
おわりに
伝統的なお香の原料には、沈香や白檀のほかにも、桂皮(けいひ/シナモン)や丁子(ちょうじ/クローブ)、貝香(かいこう)といった植物性・動物性の素材があります。近年ではラベンダーやローズなど現代的な香りも増え、香りの世界はさらに広がっています。
歴史が育んだ香りから、日常に寄り添う香りまで。自分のライフスタイルに合う一本を探すことも、お香の楽しみのひとつです。ぜひお気に入りの香りを見つけてみてください。
