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【松翠園大広間】第4回 尾道映画祭2021開催!「尾道映画談義 Vol.1『大林宣彦と尾道』」[映画祭レポート]

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『海辺の映画館—キネマの玉手箱』

『海辺の映画館—キネマの玉手箱』の制作については、撮影の一年ほど前に話を受けたという大田さん。それ以前にも尾道での話はあったものの、大林監督の病気が判明したことで一時頓挫していた話がいきなり復活し、本作に向けた12、3にも及ぶセット作りに関わったことを、当時の写真とともに振り返ります。

そのセット作りの大変さはスケジュールの厳しさもさることながら、大林監督の徹底した質感へのこだわりにもあったといいます。時には布団一枚のくたびれ具合から、ある時にはカメラの画角に入らない部分へのこだわりまで、細部にわたって高い要求があったことを大田さんは回想されます。


【左】徳永エイジさん、【右】大田貞男さん

その一方で、大田さんは大林監督作品で美術監督を務めた故・薩谷和夫さんから、セットを作る際に「台本をまずよく読みなさい」とたびたび言われ、その世界観をよく理解することを求められたといいます。大谷さんも大林監督の映画製作の本質として「脚本から必要な情景を読み取ること」にあったと語り、大林監督は非常に文学的な思考を持たれていたと、映画作りの様々なエピソードを振り返る中で説いていきます。


大谷治さん

またこの日は、本作の「車輛部」という位置づけで制作に参加された徳永エイジさんも登壇。普段アーティストとして活動されている徳永さんはもともと熱心な原田知世さんのファン(『時をかける少女』主演)であったことがきっかけで大林監督作品のファンともなり、その後あるきっかけで大谷さんの声掛けを受けこの役目に抜擢されたとのこと。映画製作の裏舞台ドキュメントを生で見られるという、夢のような時を過ごしたと振り返ります。

その中で、徳永さんは車両の運転だけでなく物品の運搬など現場に関わる他の仕事なども監督の指示でおこなわせてもらえたと語ると、大谷さんも「素人とか玄人とか、(誰がどういった役目だとかいう)境目がないんですよね、大林さんは。だから何でもやらせてもらえたんです」と、徳永さんが持参された「緑の炎」のオブジェ(本作のセットの一部として使われた道具の一つ)という自慢のコレクションを眺めながら回想されていました。


Ryo-heyさん

さらにこの日は他にも本作の歌唱シーンにおいて歌唱指導を担当された音楽家のRyo-heyさん、撮影に参加した広島出身の時川英之監督らも会場に訪れており、暑さに苦しみながらも活気あふれる中進んだ撮影の様子や、撮影に向けた大林監督の意欲的な姿勢などを振り返られていました。


時川英之監督


『尾道三部作』から振り返る大林監督との映画制作

大田さんと大谷さんが大林監督の作品に参加するきっかけになったのは、尾道三部作の第一作『転校生』への参加でした。当時は撮影ともなると東京から道具などほとんどを準備、持参しておこなうのが通例でしたが本作では現地調達、大田さんは「大谷さんの家に小道具を探しに行った覚えがあります」などと、当時映画で使った道具をどこから持ってきたか、などといった記憶とともに懐かしそうに語ります。

一方、大谷さんは現在と違い現在のようなフィルム・コミッション(映像制作誘致、撮影支援、自治体等現地との調整などをおこなう組織)もない中で、道具やエキストラ集めの連絡などにも苦労したことを振り返ります。

さらに『転校生』では諸事情でスポンサーが下りたりと、なかなかに厳しい状況の中作られた作品であったと回想する一方で、逆にこうした活動に尾道という場が積極的に向き合った姿勢こそが先駆けとなって、以降の日本映画史の中で時にフィルム・コミッションを形成していく礎となったのではないかと語ります。

反面、尾道三部作が発表されることで、尾道という場所が全国から注目を浴びる原動力になったことにより、映画には人を動かす力があると感じた一方で、まだ映画自体には文化的求心力はないと、大谷さんが考える映画界の問題と映画作りの現場の課題を語ります。


岡田慈照住職

また最後の特別ゲストとして、『さびしんぼう』の主要ロケ地である西願寺の岡田慈照住職も登場。西願寺での撮影が決まった当時を振り返る中で、劇中で最後に主役を務めた俳優の尾美としのりさん(主人公・ヒロキ役)が、大人になりこの寺の住職となるという設定から「(頭を)坊主にした方がいいと思うんだがな、まあそこは尾美くんの心ひとつなんだが…」などという話が大林監督から出て、尾美さんの髪を切るという「断髪式」がおこなわれるまでの経緯などを明かして、会場に暖かい笑いを呼び込まれていました。


そして締めくくりとして、大谷さんは以前ロケハンから得た思いを新聞に寄稿した内容から引用し、

『尾道がなぜ素晴らしいかというと、日常の中に素晴らしさがあるんです。皆さんが住まれているこの尾道で、実はすでに皆さんのロケハンはおこなわれているんです。大林さんの映画では、日常の素晴らしさがそのまま使われています。今はスマホがあるし、日常の素晴らしいところをそういったもので写真を撮る行為そのものは、大林さんの世界の入り口になります。

なので皆さんが住まわれている尾道、あるいはその他の場所でも、美術的には素晴らしいところがたくさんあるんだということに対して「映画の人はこんな風に撮るんだ」と思わないで、お手元のスマホで撮影することを日常の「こんなところに住んでいる」という、足元を見る道具として(思ってもらい、合わせて)映画も見ていただきたいです』

とご自身の思いを語られました。


松翠園大広間

このイベントがおこなわれた松翠園は、元は戦後に尾道の駅裏に建てられた旅館跡の物件で、2016年よりNPO法人「尾道空き家再生プロジェクト」主導のもと再生作業に着手し2019年に一般に公開、利用できるようになりました。

今回のイベントはこの中の「大広間」でおこなわれました。広間は60畳の広さで、広間の横には16メートルほどの一枚板が並ぶ廊下間が設けられており、窓から尾道駅近辺の町が一望できます。



さらに広間の天井は、べニア板と組み木により、壁面との継ぎ目にちょっと目を引くデザイン構造を採用されており、格子状となっているその天井は広告が張り付けられるようになっています。和室とモダンの融合的でもあるオシャレな雰囲気が漂う一方で、畳間に座布団を敷き詰めおこなわれたこの日のイベントは、あまり堅苦しさも感じられず非常にアットホームな空気を漂わせていました。


一方、この日の舞台にも面白いものが。これはグランドピアノの廃材よりトップの天板を利用して作られた、名付けて「グランドこたつ」というシロモノ。元尾道市立大学の学生がデザインしたという作品です。


「尾道三部作」の中でもたびたび使われていたアイテムとしてピアノがあったこと、『海辺の映画館—キネマの玉手箱』の劇中で大林監督がピアノを弾かれている姿が映しされているなど、大林監督とピアノには非常に強いつながりがあったという関係を考えると、このイベントに置かれた家具としてはピッタリのものだったといえるでしょう。


尾道フィルムラボ

大林宣彦監督ら名匠映画監督が築き上げた「映画のまち」の魅力を伝えるべく、尾道の映画観「シネマ尾道」に勤務されていた北村眞悟さんを代表とし、同世代のゲストハウス亭主ら計4人で設立した団体。

発足はなんと本イベントの1週間ほど前という出来立てホヤホヤの団体ですが、今後は尾道市の映画愛好家たちを中心に、ロケの協力やトークイベント開催などを実施していく予定となっており、会員も随時募集しております。


北村眞悟さん

 

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桂 伸也

桂 伸也

“和”という言葉で表現されるものには、人によって色んなイメージがあると思いますが、私は“整然として落ち着いたもの”という雰囲気を感じ取っています。

普段は芸能系ライターとして活動を行っており、かなり“にぎやかな”世界に生きていますが、その意味で“和”という言葉から受ける雰囲気に、普段から強い憧れや興味をもっていました。

なので、そんな素敵な“和”の世界へ、執筆を通して自らの船を漕ぎ出していきたいと思っています。

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