“ぼたもち” に “おはぎ” は季節に材料に地域で違う!? なぜお彼岸にお供えするの?
作る季節で違う!?
まずは季節によって「おはぎ(ぼたもち)」の呼び名が変わるという一番有力な説です。
春に作るのが “ぼたもち”、秋に作るのが “おはぎ” です。
春のぼたもちは、春のお彼岸に咲く花である牡丹に見立て、牡丹餅(ぼたんもち)と呼ばれました。牡丹の花のように大きく丸く成形するのが特徴です。
秋のおはぎは、秋の彼岸に咲く小さな可憐な萩の花が小豆粒のようなので、粒あんを萩の花に見立てて御萩(おはぎ)と呼びました。こちらはやや小ぶりの俵型に成形することが多いようです。四季を尊ぶ日本ならではの呼び方です。
他にも夏に作るものは “夜船(よふね)”、冬に作るものは “北窓(きたまど)”と呼ぶこともあります。こちらはお彼岸にお供えするのではなく、こっそり作ることに由来するようです。
餅をつくわけではないので、臼や杵を使わず、ぺったんぺったんとつく音も響かないので、近所の人にも知られずに作ることができるという意味から、夏は暗い夜に静かに着岸する船に例え “夜船” 、冬は北窓からは月が見えない(米をつかない)ことに例えて “北窓”と呼びました。
絶妙な言葉選びのセンスから生まれた呼び名ですね。
あんこが違う!?
次はあんによって呼び名が違うという説です。
こしあんは “ぼたもち”、粒あんは “おはぎ”と呼びます。
あんの原料になる小豆は春(4~6月)に種をまき、秋(9~11月)に収穫するものです。春の小豆は冬を越して皮が固いので、皮を取り除いてこしあんにしますが、秋の小豆は収穫したばかりなので皮まで柔らかく、粒あんにしても美味しくいただけます。このことから由来して、春はこしあんで “ぼたもち”、秋は粒あんで “おはぎ”と呼ばれるようになりました。
現在では、小豆の品種改良や保存技術が発達しているので、季節を問わずに美味しい粒あんが作れるようになり、季節によるあんの違いはなくなりました。いつでもこしあんと粒あんを好みで選べるようになり、あんの違いで呼び方が変わることはないようです。
お米が違う!?
次に中の米が違うという説です。
もち米を使ったものやしっかり米粒をつぶしたものを “ぼたもち” と呼び、一般的な米(うるち米)を使ったものや、粒感が多く残ったものを “おはぎ” と呼ぶというものです。
昔は家庭で作るものでしたから、そもそも地域によって収穫される米の種類や作り方の違いはあったでしょう。餅をつくわけではないので、絶対もち米じゃないと作れないというわけではありません。もち米とうるち米を混ぜて炊いたり、様々なアレンジがあったと想像できます。
現在は核家族化したことで、スーパーのお惣菜売り場や、和菓子店で購入する人が多くなりました。市販されているおはぎ(ぼたもち)は、もち米とうるち米を混ぜて炊いたものが多く見られます。一概に米の違いで呼び分けるというのは難しいかもしれませんね。
地域で違う!?
東西に長く、四季がはっきりしている日本では、地域で収穫物が違い、お正月に食べるお雑煮も多種多様ですから、昔から家庭で作られてきたおはぎ(ぼたもち)も、地域で作り方が違って当たり前ですね。
そこで和菓子店で買えるおはぎ(ぼたもち)を調べてみました。
まずは東日本から。北海道が本店のサザエ食品「十勝おはぎ」(創業1957年)では、通年で“おはぎ”と呼び、あんはこしあん、粒あんが選べて、中はもち米です。東京の「榮太郎」(創業1857年)でも通年で“おはぎ”と呼び、あんはこしあん、粒あんが選べて中はもち米、お彼岸限定で販売されています。
次に西日本です。近江の「たねや」(創業1872年)では、春は“ぼたもち”、秋は“おはぎ”と呼び方を変え、お彼岸限定で販売されています。あんは粒あんで、中はうるち米に雑穀を混ぜています。
京都が本店の「仙太郎」(創業1886年)では、通年で“ぼたもち”と呼び、あんは粒あん、中はもち米です。
福岡が本店の「鈴懸(すずかけ)」(創業1927年)では、春はこしあんの“ぼたもち”で、秋には粒あんの“おはぎ”で、中はもち米です。呼び方も作り方も変えてお彼岸限定で販売されています。
おおむね東日本は“おはぎ”、西日本は“ぼたもち”と呼ぶ傾向があるようです。
地域に根ざした老舗の和菓子店では、春と秋のお彼岸では呼び方を変えるところも多く、東西の地域差はもちろん、店によっても本当に様々ですね。
お彼岸にお供えするもの!?
日本では、そもそも神仏両方を共にまつるという風土があります。おはぎ(ぼたもち)は、神様やご先祖様への感謝の気持ちと共に、いろいろな願いや祈りをささげるものでした。
二十四節気のひとつである春分と秋分は、昼と夜の時間の長さが同じになる季節の節目。お彼岸はこの春分の日と秋分の日、それぞれの前後3日、計7日間を指します。農業を生業としてきた日本人にとって、季節の節目は農作業の節目として大切な意味がありました。
また、仏教では、亡くなった方が行かれるあの世と呼ばれる悟りの世界を「彼岸(ひがん)」と呼び、お彼岸にはあの世とこの世の距離が近づいて、ご先祖様が家に帰ってこられる期間とされています。
赤い色の小豆は、邪気を払う魔よけの効果があるとされていて、春のお彼岸には豊作を願い、秋のお彼岸には豊作を祝い、感謝の気持ちとして神様と仏様におはぎ(ぼたもち)をお供えしていました。しかも砂糖は貴重なものだったので、おはぎ(ぼたもち)はお彼岸の時期だけの、特別な御馳走として扱われていたのです。
ちなみに、2021年春のお彼岸は3月17日(水)から3月23日(日)の7日間、秋のお彼岸は9月20日(月)から9月26日(日)の7日間です。
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あんころ餅とは?
「あんころ餅」は餡衣餅の字のとおり、外側をこしあんの衣でくるんだ小さめの餅です。
おはぎ(ぼたもち)もあんでくるむので、広義であんころ餅の一種とも言えますが、中の米は粒を残します。それに対してあんころ餅は、米の粒がなくなるまでつぶした餅を使います。
ちなみに米を完全につぶすことから、別名であんころ餅は「皆殺し」、おはぎ(ぼたもち)は「半殺し」とも呼ぶそうです。ちょっと物騒な響きですね。また、あんころ餅は、関西や北陸地方(特に京都、金沢)を中心に、夏の土用の入りの日に食べる風習があり、その時期には「土用餅」とも呼ばれます。
あんころ餅の代表格と言えるのが伊勢の名物「赤福」です。あんころ餅は江戸時代に疲れた旅人が食べやすい様に、小さく一口サイズになったとも言われ、主に宿場町ではお土産として人気がありました。地方によっては、あんを餅でくるんだ大福のようなものを、あんころ餅と呼ぶところもあるそうです。
まとめ
同じものでありながら、名前の由来が諸説ある“ぼたもち”と“おはぎ”について紹介しました。
今ではいつでも気軽に買えるようになったおはぎ(ぼたもち)ですが、時代が移り変わっても、お彼岸にはおはぎ(ぼたもち)をお供えして、ご先祖様への感謝の気持ちを込めていただきたいですね。