【講談】悪者にも心惹かれる?!息を飲む芸!講談の演目を解説[11演目]
この記事の目次
連続物:軍談
『慶安太平記』
江戸・慶安年間(1648年〜52年)に、徳川の天下を覆そうとする騒動の首謀者となった、由井正雪(ゆいしょうせつ)の物語
駿河国の染物屋の倅だった正雪は、少年時代から才能に優れていた。
成人の後、大望を持って江戸へ。軍学者・楠木不伝(くすのきふでん)の道場で学び、後にその道場を乗っ取り、剣術、槍術の指南も行った。
門弟が千人規模に膨れ上がる頃、幕府転覆の野望を抱き、幅広く人材を集め、大望成熟に向けて着々と準備を進める。
そんな中、三代将軍家光の他界を好機と、正雪は計画の実行を決意。
着々と準備を進める中、槍の名手・丸橋忠弥(まるばしちゅうや)と奥村八郎右衛門が碁の勝負でいざこざを起こし、奥村が正雪の幕府転覆計画を漏らしてしまう。
松平伊豆守の手配りで一味は一網打尽。
「もう逃げきれない」と観念した正雪は、切腹して果てる。
【解説】
全19話に渡る長編の話ですが、いくつかの山場があり、緊張感にあふれる見せ場が各話に散りばめられ、独演会では、そこの話だけを一席物として講じることもあります。
また、落語の演目としても有名です。
連続物:政談
『畔倉重四郎』
最期まで悪人人生を貫いた重四郎の物語
善良な父親から一刀流の剣術を受け継いでいた畔倉重四郎(あぜくらじゅうしろう)だが、父が亡くなったことから歯車が狂い出し、博打で身を持ち崩す。
恩人である穀屋平兵衛(こくやへいべえ)を斬殺したのを皮切りに、「気に入らないヤツ、邪魔なヤツ」を次々と手にかけ、その罪を仲間になすりつけ、自らはまんまと生き延びる。
身分を偽り、神奈川宿の旅籠の主に納まり、何不自由なく暮らしていたが、悪人の顔を隠しきれず、ふたたび新たな殺人事件を起こしてしまう。
江戸南町奉行大岡越前守などの執念によって捕らえられたものの、お白州で厳しい詮議を受けても、ぬけぬけと潔白を主張。
入牢してもなお、悪だくみを巡らすが、重四郎の罪は全て明らかになり、磔刑(たっけい)に処された。
【解説】
畔倉重四郎は、全19話の中で11人を手にかけ、大岡越前守が「こいつらだけは許せない」と言った悪党3人のうちのひとりでもあります。
またこの読み物は、長い話で寄り道も多く、伏線があちこちにあることから、どれか途中の一席だけを一席物として読むことが難しい話でもあります。
一席物:軍談
『三方ヶ原軍記』
多くの講談師が最初に覚える話
元亀三年(1572)12月22日、遠江国(とおとうみのくに)・三方ヶ原(現在の静岡県浜松市)で起こった、甲斐の武田信玄と徳川家康・織田信長勢との戦い。
京都へ行く途上にあった信玄率いる武田軍を、徳川・織田の連合軍が迎え撃ったが、徳川勢は徹底的に叩きのめされて敗走。後に「家康、生涯唯一度の負け戦」といわれた。
【解説】
独特の修羅場調子で読み上げるこの話は、講じるうえで必要な「大声、緩急、呼吸、体力」を養うのに最適な演目です。
また一句出てこないと次へ繋がらないこともあり、これを覚えることで講談の基礎を身に付けることが出来ると言われています。
一席物:赤穂義士伝
『大高源吾』
話の中にある「あらゆる別れのエッセンス」が聞きどころの物語
吉良邸討入りの日の夕方、「すす竹」売りに身をやつした大高源吾は、両国橋で俳諧仲間の師匠、宝井其角(たからいきかく)と偶然会う。
其角は、源吾の身なりを見て、もう会うこともあるまいと自分の羽織を与える。
そして「最後に付け句を」と、隅田川の流れを見ながら「年の瀬や水の流れと人のみは」と詠む。
源吾は「あした待たるるその宝船」と返した。
源吾の句を不思議に思った其角は、その足で俳諧を指導する旗本・土屋主税(ちから)の屋敷へ行きこの話をすると、主税は「源吾の付け加が討入り決行」の暗喩であることを見抜く。
主税の屋敷は、吉良邸の隣にあった。
【解説】
赤穂義士(あこうぎし)とは、江戸幕府の高家・吉良義央(きらよしなか)邸に討入りし、旧藩主の浅野長矩(あさのながのり)の仇討ちをした、赤穂藩士47名のことであり、その逸話の読み物がこの赤穂義士伝です。
因みに、其角が詠んだ句は、すっかり落ちぶれた源吾(討入りのための偽装の姿)に会った驚きと感慨を表しています。
また源吾が返した付け句は、討入りへの思いを込めたものです。
一席物:役者伝
『中村仲蔵』
下回りから這い上がり名題に昇進した、初代中村仲蔵の物語
歌舞伎役者の中村仲蔵は、家柄もなく、名門の血筋ではない。そのためか、芝居『仮名手本忠臣蔵』の晴れ舞台で、当時は端役だった「五段目」の斧定九郎(おのさだくろう)の役を振られる。
柳島の妙見様に願をかけ「これまでにない定九郎を作る」と意気込むが、名案が浮かばない。
そんなとき、雨宿り先の蕎麦屋で見た浪人風の武士。古い黒紋付を肩まで腕まくりし、伸びた月代(さかやき)から水が滴る。
「これだ!」と閃いた仲蔵は、全く新しい演出で定九郎を演じ、次第に評判を呼ぶのであった。
【解説】
落語でもおなじみの演目であり、大筋では、講談と落語はほぼ同じ展開で話が進みます。
因みに役者の階級制度は、「稲荷町」から「中通り」「相中」そして「名題」と数えます。
稲荷町は、一生稲荷町が当たり前ですが、仲蔵は稲荷町から始め、名題まで上り詰めたのです。
一席物:名人伝
『陽明門の間違い』
落語でも登場する、左甚五郎の物語
足利13代将軍義輝の家来、伊丹正利の息子利松は、幼少期から利口な上にたいへん器用だった。12歳の冬、墨縄の弟子となり「甚五郎利勝」と名をあらためる。そして、成長した甚五郎は修業の旅に出る。
その頃、3代将軍家光が日光東照宮陽明門の普請を命じるが、2年経っても完成しないため、甚五郎たちは日光へ助太刀に行き、3ヶ月で陽明門を完成させる。
ところが、はじめに普請を受け持った大工の栗原遠々江は、甚五郎を妬み、遠々江(とおとうみ)の弟子・滝五郎が、甚五郎の右腕を切り落とした。
滝五郎は、義理を通すために、今度は師匠・遠々江の左腕を切り落とし、それを甚五郎に届け、切腹して果てる。その後、甚五郎にその非を詫びる遠々江。
やがて家光より、上野東照宮の扉に龍を彫るように命じられ、左扉は甚五郎、右扉は遠々江が手がけた。
以来、左手1本で見事な仕事を続けたことから、「左甚五郎」と呼ばれるようになった。
【解説】
落語の演目『ねずみ』『三井の大黒』などでも登場する、名工・左甚五郎の話です。
落語の甚五郎物は講談から来ており、講談では、トーンが暗く、激しい気性で男気ある甚五郎が活躍します。
また、浪曲にしか存在しない甚五郎物もあります。
一席物:力士伝
『谷風の情け相撲』
大横綱谷風の粋な話
小兵力士の佐野山は、父親の看病疲れと薬代の支払いに追われ、水ばかり飲んで土俵へ上がるため、初日から連敗続き。これを聞いた横綱谷風が「千秋楽に佐野山と対戦させてくれ」と願い出る。
これを知った相撲好きの江戸っ子連中はびっくり仰天し、様々な憶測が飛び、祝儀の話も出るほど評判になる。
そしていよいよ、結びの一番。場内は「佐野山、佐野山!」の声援ばかり。
谷風は上手い相撲で土俵を割り、佐野山は嬉し涙にくれた。
【解説】
『寛政力士伝』の中にある一編の話です。
大横綱谷風の強すぎる弟子、雷電の出世物語の『雷電の初土俵』と一緒に楽しむと、話をさらに深く理解できます。
一席物:怪談
『宗悦殺し』
江戸時代の背筋がゾクっとする話
根津の七軒町に住む、鍼医で高利貸しの皆川宗悦(みながわそうえつ)は、賃金の督促のため、小日向服部坂の深見新左衛門の屋敷を訪れる。
地位のある武士でありながら、酒浸りで貧乏の新左衛門は、宗悦と口論になり、酔った勢いで斬り殺してしまう。
その後、宗悦殺しを気に病んで、寝込んだ妻のために、鍼医を呼んで治療をさせるが、症状が悪化していく。
別の日、違う鍼医を呼び入れて新左衛門の肩を揉ませると、刺されるように痛い。振り向くと、1年前に殺した宗悦が恨めしそうに見下ろしていた…。
【解説】
「近代落語の祖」とも呼ばれる三遊亭圓朝の代表作の一つである『真景累ヶ淵』の序章を、講談では一席の怪談として完結した読み物にしています。
一席物:侠客伝
『芝居の喧嘩』
目の前で行われている喧嘩が、芝居なのか現実なのかわからなくなる、急展開で単純明快な話
幡随院長兵衛の配下の町奴(まちやっこ)、夢の市兵衛と唐犬権兵衛が、山村座へ芝居見物に行く。
大混雑の場内で、半券代わりの「半畳」という敷物を持たないで見物しようとする男(伝法男)と、これをつまみ出そうとする若い衆との間で喧嘩が起きる。
この伝法男が、幡随院長兵衛の子分だったことから、長兵衛一派と敵対する、水野十郎左衛門の四天王の1人、金時金兵衛が乱入する。
そこへ市郎兵衛らが仲間の助っ人に駆け付け、山村座は血の雨の降る抗争の舞台となる。
【解説】
この話は、連続物『幡随院長兵衛』の中盤のエピソードであり、 落語の『芝居の喧嘩』は、講談のパロディです。
2代目神田山陽が、二ツ目時代の柳家権太楼に教え、笑いを沢山にした権太郎版が、落語家の間で広まり、現在に至ります。
一席物:武芸物
『海賊退治』
ラスボスとの戦いにワクワクする話
江戸から肥後熊本へ向けて風早丸という大船が瀬戸内海に差し掛かった時、5艘の小舟が近づいてきた。見ると、西海灘右衛門(さいかいなだえもん)が率いる海賊船。
あっという間に風早丸を取り囲み、網をつたって30人ほどの海賊たちが船に乗り移ってくるが、風早丸に乗っていた侍の獅子奮迅で、海賊たちを倒す。
そしてついに、海賊の頭・西海灘右衛門が登場。薙刀を振り回し、侍の笹野権三郎義種と打ち合い、海中でもみあった末、権三郎が海賊を倒し、喝采が上がる。
【解説】
この話は『笹野名槍伝』の中の一席です。
海賊と侍の激しい戦いが聞きどころの話であり、クスグリ(笑い所)やケレン(奇抜な演出)があちこちに散りばめられ、軽くて面白い話です。
一席物:白浪物
『青龍刀権次』
何度も同じやつに騙されては刑務所に叩き込まれ、時代の流れに翻弄される権次の物語
年の瀬に、薩摩の侍が芸者を殺すのを目撃した青龍刀権次(せいりゅうとうごんじ)は、「御用だ」と迫るが、侍に金を貰ってその場から逃げる。
しかし翌日、その事が発覚し、権次はお縄となる。
3年後に牢から出た権次は、幕府が倒れたと聞き驚く。仕方なく料理屋で働いていたところ、店にあの芸者殺しの侍がやってくる。大隊長となっていたその侍を、権次は今戸橋に呼び出し、金をゆすって300両貰うが、これがニセ金で権次はまた御用となる。
そして、8年後に牢から出ると、ちょんまげ姿の者はおらず、世の中がすっかり変わっていた。
再び大隊長に遭遇し「今は陸軍中将・黒田清隆だ」と名乗られ、過去の口止めに大金を渡そうとするが、権次は人殺しが偉くなるような世の中に呆れ、そのまま行方をくらます。
やがて権次は盗賊となり、世の中を震撼させるのだった…。
【解説】
幕末から明治にかけての話です。本来は連続物ですが、「序開き」の部分が一席物として演じられることが多い演目です。
まとめ
残念ながら、ここでお時間となってしまいました。
講談の演目は、講談師が時代の流れに沿って、それぞれ台本を変えているのも特徴のひとつです。
その刹那的な講談の話芸を、ぜひ生で体感してみてください。
これからが面白いですが、また明日。
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