【和食配膳】知っておきたい! 一汁三菜。ごはんと汁物の並べ方に意味がある。
一汁三菜とは
「一汁三菜(いちじゅうさんさい)」とは、和食の基本的な献立と配膳方法を表す言葉です。
ご飯と漬物をベースに、プラス「一汁」の汁ものと、主菜一品と副菜二品の計「三菜」が揃ったバランスの良いメニューを指しています。
歴史を紐解いてみると、平安時代にはすでに畳に座り、一人一つのお膳で食事をするスタイルが定着していました。庶民もお膳で食している様子が絵巻物に描かれています。
「本膳料理」が確立されたのが室町時代です。武家社会ではおもてなしのお膳として本膳(一の膳)、二の膳、三の膳があり、お膳には一汁三菜、一汁五菜と、一、三、五、七の数で汁や菜の数が変化するよう決められていました。一つのお膳には必ず汁が一品以上配膳されているのが特徴です。お膳の種類や料理を盛る器は、会食の客の身分や役職によって様々に変化し、身分の上下に伴って簡略化もされました。
この中で現代まで引き継がれているのが、一の膳に相当する「一汁三菜」です。
炭水化物(糖類)のご飯と漬物に加え、「一汁」に味噌汁や吸い物、「三菜」の主菜は主にタンパク質の魚、肉、大豆などで、焼く、揚げる、煮る、蒸すなど多彩な調理方法があります。副菜二品は、主菜で摂りきれない食物繊維、ビタミン、ミネラルなどを補う食材として野菜やきのこ、海藻などを組み合わせます。
ちなみに仏教など宗教上の理由から、動物性の魚や肉を食べない「精進料理」では、主菜に野菜の天ぷらや、揚げ出し豆腐などの大豆食品が並びます。旬のものを地産地消する考えが根底にあり、四季折々の旬の食材を用い、栄養面でもバランスが良いのが一汁三菜の特徴です。
一汁三菜の配置方法
「一汁三菜」の並べ方は、旅館に泊まった時の朝食のお膳をイメージするとわかりやすいでしょう。
手前の左手にご飯茶碗、右手に汁椀、奥の左から順に、煮物などの副菜、和え物や酢の物の副々菜、右側に主菜を並べます。お漬物は小皿でご飯と汁の間に配置します。
現代の生活では、小さなお膳にすべてを配膳するわけではないため、食器の大小やメインのボリュームによって主菜を中央に配置することも多く、並べ方は多少前後しても問題ないとされています。
その中で変わらないのは、手前左がご飯で、右が汁であるということです。箸は右利きが前提となるので、持ちやすいよう箸先を左向きに、最も手前に配置します。
ご飯の位置に意味がある
なぜご飯は必ず左に配置するのか?この位置の意味は、二つあるとされています。
一つ目の意味は、左が上手(かみて)という考え方です。米は古くから日本人にとって特別な意味を持っています。私たちの命の源であり、神聖なものとして酒にして神様に捧げるものでもあります。神前では常に左が上手で、神様に近いとされるので左に米を置くという考えです。平安時代には既にこの配置が定着していました。
二つ目の意味は、左手でご飯茶碗を持ち、右手で箸を持って食べるという、右利きが基本である日本人の慣習による理由です。
最近は奥に置かれた主菜に箸を伸ばすと、右手の汁椀にぶつかって汁をこぼしてしまうということから、便宜上汁椀を左手に置くところもあるそうですが、基本は左にご飯茶碗です。
魚の盛りつけ
主菜が姿焼きなど尾頭付きの魚の場合、盛り付け方は「海腹川背(うみはらかわせ)」と言われています。
これは神様(またはお客様)に魚をお供えする時に、海魚か川魚なのかを知らせる意味で、海の魚は腹を下にし、川の魚は背を下にして提供するとされていました。
昨今では海魚が多いこともあり、川魚であっても頭は左、腹を下にして盛り付けることが主流になりました。これは骨を外す時に、右利きは左から右へ箸を動かして骨を外すと食べやすいということも理由になっています。
紛らわしいのが板前用語で使われる「海腹川背」が、盛り付け方ではなく、焼き方を指す場合です。
海魚は回遊していて皮が厚く脂が多いので、開きにして腹(身)から焼いて、脂を逃がさないように焼くとよいとされ、川魚は皮が薄く淡白なので、丸ごと背(皮)から焼くと良いと言われています。地域によっては「海背川腹」と、逆に伝えられているところもあるため、こちらは皿に盛り付けた時の美しさ、食べやすさから判断した方がよいかもしれません。
一汁三菜を食べる順番
食べる順番まで気を配れると和食上級者です。
まず一番目に箸をつけるのが汁椀です。これには箸を湿らせて汚れをつきにくくする意味が含まれます。汁ものでこれから食事が始まることを身体に知らせて胃を整える意味もあります。
二番目にご飯を食べ、三番目にようやく主菜に手をつけます。
味の薄いものから濃いものへ、お膳の中で三角形を描くように食べはじめ、適宜副菜と漬物(香の物)をいただきます。
一口ずつ取って口の中で混ぜわせて味わう「口中調味(こうちゅうちょうみ)」は和食特有の食べ方です。味のないご飯をベースに、主菜や副菜を好みの量加えて味の変化を楽しみます。
和食はフレンチなどのコース料理のように、一皿ずつ食べて下げていく食べ方とは異なるので、一品だけを食べて空にしてしまわずに、主菜、副菜の間にご飯と汁を組み合わせながら、三角形に食べ進めるのが基本になります。
ちなみに一品だけを食べてしまうことを「ばっかり食べ」と呼び、何を食べるか定まらず、迷って箸先をうろうろさせてしまうことを「迷い箸」と呼んで、どちらもマナー違反とされています。ゆっくり三角形の順番で味わいましょう。
まとめ
「一汁三菜」について、その意味と配膳方法、食べる順番などを紹介しました。日々の献立づくりや、おもてなしの機会にお役立てください。
和食には今回触れた「本膳料理」や「精進料理」の他にも、茶事から派生した「懐石料理」、宴席の「会席料理」などもあります。そのいずれも「一汁三菜」がベースにあり、品数が多く、コース料理のように提供される順番が決まっていったものもあります。
まだまだ奥深い世界があります。こちらもぜひご覧ください。
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