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【落語めし】身近な食べ物から落語をのぞく!夏のスタミナ食「うなぎ」編[演目:素人鰻]

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「万葉集」や「鬼平犯科帳」にもうたわれていたうなぎの効果

うなぎが文献に初めて登場するのは、新元号「令和」の出典としても注目されている「万葉集」です。

石麻呂に 吾れもの申す夏痩せに よしといふものぞ むなぎ(鰻)とり食(め)せ

(大伴家持 巻16-3853)

これは大伴家持が友人の吉田連老におくった歌で、夏痩せしたという吉田連老に、大伴家持がうなぎを食べるように勧めています。これにより万葉の時代から、うなぎが滋養強壮に効果のある食材として、知られていたことがうかがえます。

しかし、割いて骨を取り、串を打つようになったのは、江戸時代中期以降の1750年前後だと推測されています。時代劇でいうと、池波正太郎の「鬼平犯科帳」で鬼の平蔵こと長谷川平蔵が活躍した時代です。

それ以前の食べ方は、ぶつ切りにしたり、小さめのうなぎを丸のまま串を打ち、それを焼いて味噌や酢をつけて食べていたのだとか。その串を打って焼いた姿が「蒲の穂」に似ていることとから「蒲焼き」と呼ばれるようになったという説もあります。

「鬼平犯科帳」の中でも、平蔵の息子の子供時代を振り返り「丸焼きにしたやつへ山椒味噌をぬったり豆油をつけたりして食べさせたもので、江戸市中でも、ごく下等な食物とされていたものだ。とても市中の目ぬきの場所に店をかまえて商売ができる代物ではなかったのである」と表現されています。

今のような高級品ではなく、職人や肉体労働者が好んで食べるスタミナ食として重宝されていたようです。


元武士がうなぎ屋に転職する騒動を描いた「素人鰻」

さて、そんなうなぎを題材にした落語というと「鰻の幇間」「後生鰻」「鰻屋」などいくつもあります。それだけ江戸っ子にとってなじみ深い食べ物だったのでしょう。その中で、今回ピックアップするのは「素人鰻」です。

舞台は明治初期。腕はいいが酒癖が悪いうなぎ職人に勧められて、元武士が食べるためにうなぎ屋を始めることに。

ところがその開業初日の夜、職人に祝い酒をふるまったまでは良かったが、職人は悪酔いして主人に悪口雑言。翌日反省して許しを乞うものの、それが何度も続き、堪忍袋の緒が切れた主人は、とうとう職人を店から追い出してしまう。

その翌日、職人がいないない店に客が次から次へと。仕方なく主人が慣れない手つきで鰻をつかまえようとして大騒ぎになる、

という「士族の商法」の顛末を描いた噺です。

明治時代になり、ついこの間まで刀を下げて威張っていた武士が、うなぎの調理もできない情けない存在として描かれてるところが痛快です。


八代目桂文楽が常連にした神田明神下の「神田川」

この「素人鰻」を得意としていたのが八代目の桂文楽。文楽が昭和29(1954)年に芸術祭賞を受賞したのもこの噺でした。明治25(1892)年生まれで、大正9(1920)年5月、六代目桂文楽を襲名したものの、縁起をかついで末広がりの八代目を名乗ったことでも有名です。黒門町(現、上野1~3丁目の一部)に居住していたところから「黒門町の師匠」とも呼ばれていました。

五代目古今亭志ん生と人気を二分し、八方破れな芸風で人気だった志ん生と対極をなすように、自信のある噺を細部まで練りこみ、芸の完成度の高さを追求しました。池波正太郎もエッセイで「当時の文楽は、まだ四十そこそこであったろうが、私には、この人の落語をきくと、他の落語家が、みんな色褪せてみえたものだ」と思い出を綴り、大ファンであったことを告白しています。

ちなみにこの噺に登場するうなぎ職人は、今も続く神田明神下の「神田川」で修行していたといわれており、文楽はこの店の常連だったそうです。


まとめ

落語めし「うなぎ」編。

最近は値段が高騰して、食卓にのぼる機会がグッと減っしまったうなぎですが、やはり暑い日が続くこの時期には、あの香ばしい匂いに誘われてしまいます。

今年の夏は、黒門町の師匠の「素人鰻」を頭に思い浮かべながら召し上がってみてはいかがでしょうか。いつもよりひと味違う味が楽しめるかもしれません。

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松野孝司

松野孝司

グルメ、街ネタから就活メディアまで万物書き引き受けます。趣味は落語。都内の寄席のほか、石神井公園、大泉学園の飲み屋に主に出没します。最近はクラフトビールにはまっています。

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