【着物】織物と染物の違いは!? 着物に宿る土地の記憶。日本各地の染織文化を知る
全国各地には、独自の風土や文化によって育まれてきた多種多様な着物があります。着物は、先染めを行う織物(おりもの)と後染めの染物(そめもの)に大きく分かれ、「染め」と「織り」を指す「染織(せんしょく)」という言葉は、繊維製品の総称としても用いられています。
今回の記事では、織物と染物の概要を確認したうえで、日本各地を代表する染織を紹介していきます。
織物と染物について
織物とは、あらかじめ染めた糸を織り上げた生地のことで、「先染め」とも呼ばれます。糸の中心までしっかりと染められた深みのある色合いが特徴で、たて糸とよこ糸の組み合わせによって、さまざまな模様や図柄を表現できます。
大島紬など高価な織物もありますが、一般的には旅行やショッピングなど、比較的カジュアルな場面で着用されることが多いとされています。
一方、染物は、白い糸の状態で生地を織った後に染める手法を指します。「後染め」や「染めの着物」とも呼ばれ、友禅や小紋(こもん)、紅型(びんがた)が代表例です。織り上げた後に絵を描くように図柄を書き込むため、複雑で繊細な表現が可能ですが、完全に糸の芯まで染めているわけではないため、色褪せしやすいという側面もあります。
また、一般的には染めの着物は織りの着物よりも格が高いとされ、冠婚葬祭などフォーマルな場でも着用されます。
織物
西陣織
着物の正装は「染めの着物に織りの帯」と言われることがあり、染めの着物の代表として京友禅、織りの帯の代表として西陣織が古くから知られています。
「西陣織」という名称は、1467年に勃発した応仁の乱で西軍の本陣が置かれた地域に由来しています。乱後、裕福な町人や権力者の庇護のもと、高級絹織物の産地として発展しました。
西陣織は、絢爛豪華な意匠が特徴です。現在では、爪掻本綴織(つめがきほんつづれおり)や経錦(たてにしき)など、12種類が国の伝統的工芸品に指定されています。
なかでも代表的な技法である爪掻本綴織は、ギザギザに刻んだ爪で糸を引き寄せ、人力で動かす綴機(つづればた)を使って織り上げる高度な技法です。複雑な紋様になると、1日に1平方センチほどしか織ることができないものもあり、織物の最高峰とも称されています。
大島紬
鹿児島県奄美地方で作られている大島紬は、ペルシャ絨毯、フランスのゴブラン織とともに「世界三大織物」のひとつと言われています。
大島紬は、上質な絹糸を泥染めした後、南国らしい柄に織り上げるのが特徴です。奄美地方では、テーチ木(車輪梅)の煮汁を染料として用い、泥田で糸を揉み込むことで、タンニンと泥の鉄分が結びつき、独特の深い黒色が生まれます。
その糸を用いて、蘇鉄の葉やハブの背模様を図案化した「龍郷柄(たつごうがら)」など、特徴的な文様に仕上げていきます。
博多織
博多織は、太い横糸と細かい縦糸を使い、柄を浮かせるように織り込んだ、張りと厚みのある生地が特徴です。主に着物の帯として使用され、帯を締めた際に「絹鳴り」と呼ばれる独特の絹擦れの音がすることでも知られています。
なかでも有名なのが、江戸時代に幕府への献上品となった「献上博多」です。独鈷(どっこ)などの仏具を図案化したデザインが特徴で、青・赤・紺・黄・紫の五色を用いることから「五色献上」とも呼ばれています。
締め心地の良さから、主に武家の男帯として愛用されました。
久留米絣
久留米絣は、国の重要無形文化財に指定されている綿織物で、伊予絣、備後絣とともに「日本三大絣」に数えられます。
「絣(かすり)」という名称は、部分的に染めた糸を織り出した際、模様がかすれたように見えることに由来するとされています。
これまで紹介してきた絹糸の織物とは異なり、絣は綿花を紡いだ綿糸から作られています。文様は、幾何学文様と絵画文様に大きく分かれ、魔除けの意味を持つ矢絣や、子どもの成長を願う麻の葉など、縁起の良い柄が多く見られます。
染物
京友禅
京友禅は、江戸時代中期の元禄年間(1688〜1704年)に、京都で扇面絵師をしていた宮崎友禅によって生み出されました。
代表的な技法である「手描友禅(てがきゆうぜん)」では、織り上がった生地に下絵を描き、輪郭に糊を置いて色が混ざらないようにしたうえで、筆や刷毛を使って色を挿していきます。
かつては鴨川や桂川で余分な染料を洗い流す「友禅流し」が行われていましたが、現在では工場内で行われることが一般的です。
京友禅は、豊かな色彩と華やかさが特徴で、金箔や銀箔、刺繍などを施すこともあります。繊細で緻密な技術によって生み出される京友禅は、美しい着物であると同時に、日本を代表する工芸品でもあります。
加賀友禅
加賀友禅は、京友禅の創始者である宮崎友禅が晩年を過ごした金沢で確立された友禅染です。
基本的な技法は京友禅と共通していますが、前田藩の庇護を受けた武家文化の影響から、落ち着いた色彩と自然を取り入れた意匠が特徴となっています。
藍・黄土・草・古代紫・臙脂の「加賀五彩」を基調とし、京友禅のような華美な金銀箔装飾はあまり用いられません。
また、病葉(わくらば)や虫食いの葉を描く「虫喰い」、外側を濃く中心を淡く染める「外ぼかし」など、独特の表現技法にも特徴があります。
琉球紅型
[りゅうきゅうびんがた]
琉球紅型は、14〜15世紀の琉球王朝時代に、王族婦人の礼装や神事の装束として用いられ始めました。
交易によってもたらされたインド更紗や中国の型紙染めの技術を取り入れ、独自に発展した染色技法です。
型紙を用いて色を重ねる「型染(かたぞめ)」だけでなく、直接生地に模様を描く「筒描(つつがき)」の技法も存在します。また、赤・黄・青・緑・紫を基調とした鮮やかな「紅型」と、藍色の濃淡で表現する「藍型(あいがた)」に分かれます。
なかでも紅型は、ベニバナやクチナシなど自然由来の染料を用い、沖縄の動植物をモチーフにした華やかな文様が特徴です。
江戸小紋
江戸小紋は、江戸時代に武家の礼装であった裃(かみしも)のデザインを起源としています。
奢侈禁止令によって派手な色柄が制限されたため、遠目には無地に見えるほど細かな模様を繰り返すことで、武家の威厳と粋な美意識を表現しました。
なかでも「鮫(さめ)」「行儀(ぎょうぎ)」「角通し」は「江戸小紋三役」と呼ばれ、格式の高い文様として知られています。
江戸中期以降、町人文化が栄えると、武士だけでなく庶民や女性の着物にも小紋が広まり、動植物や縁起物をモチーフにした多彩な柄が生まれました。
おわりに
着物には、産地による違いだけでなく、生地そのものにもさまざまな種類があります。
たとえば、綸子(りんず)は、撚りのない糸を用いた光沢のある生地です。縮緬(ちりめん)は、強い撚りをかけた糸によって「シボ」と呼ばれる凹凸が生まれ、柔らかくシワになりにくい特徴があります。
また、夏の着物に用いられる絽(ろ)や紗(しゃ)は、通気性に優れた薄く透け感のある生地です。
このように、着物は染めや織りだけでなく、生地の違いによっても表情が変わります。ぜひ、着物を選ぶ際の参考にしてみてください。
