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【落語】ミスター落語!三代目古今亭志ん朝の代表演目のあらすじ解説[厳選3演目]

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明鳥

江戸時代の草食系男子が、町内の遊び人2人と花魁の魅力によって、一夜で成長する話

日本橋田所町たどころちょうの日向屋半兵衛はんべえは、地主で商売も繁盛しているが、一人息子の若旦那、時次郎ときじろうが悩みの種であった。この時次郎、真面目で純情な性格であるが、家にこもって本を読んでばかりいる。父親としては、「商人が付き合いが悪くてはいけねぇ」と、悩んでいた。

そんなある日、時次郎は町内の遊び人、源兵衛げんべえ太助たすけの2人に会い、浅草寺裏のお稲荷様へ一緒に行かないかと誘われる。それを聞いた父親は喜び、「どうせなら一晩お籠りおこもりをしてこい」と言われる。

しかし、実は半兵衛が、源兵衛と太助に、「息子を吉原へ連れて行ってくれ」と頼んだことだったのだ。源兵衛と太助は、時次郎を連れて、見返り柳を過ぎ、稲荷の鳥居だとごまかした大門おおもんをくぐり吉原へ。

お稲荷様へ行くと信じきっていた時次郎も、花魁の姿を見て、色里であることがわかった。

この状況を見て、時次郎は「帰る!」と言い張るが、「行きと帰りで人数が違うと大門で止められる」と、源兵衛と太助に嘘の脅しをかけられて、渋々一夜を過ごす。

ところが朝になると、時次郎はすっかり花魁おいらんに夢中。

嫉妬した遊び人の2人が帰ろうとすると、「あなた方、先に帰れるものなら帰ってごらんなさい。大門で止められます」

[補足]

吉原は風俗街であると同時に、観光名所のひとつでもありました。またこの噺は、幕府の台所役人と吉原の花魁が心中したという実話を元に、講釈や義太夫節、芝居にもなり大ヒットしたものを、落語では滑稽に作り変えられました。

さらに『明烏』は8代目桂文楽の十八番であり、志ん朝は文楽の言い回しを礎としていましたが、志ん朝が元々持っている声音こわねやセクシャルな色っぽさが、この噺では特に引き出され、十八番の中でもトップに入る人気の演目となりました。

また志ん朝が真打ちに昇進した、鈴本演芸場の披露公演4日目に演じた噺でもあります。


宿屋の富

ほら吹きだがどこか憎めない男と、素直な宿屋の主人が、富の札をきっかけにお互いの人間らしさを感じられる噺

日本橋馬喰町ばくろちょうに並ぶ宿屋の一つに、流行らない店があり、貴重な泊まり客に喜んだ亭主は、丁寧に挨拶をするが、客は「かまわないでくれ」と言い、こんな身の上を打ちあける。

「なにしろ、在所くにの家には、身の回りの世話をする者だけでも50、60人居て、心が休まらない。

番頭に相談すると、『荷物も持たず、粗末ななりをして、旅をしてみてはどうだ』というので、その通りに旅を続けてきたところ、どこでも粗末な扱いを受けて、せいせいしている。

また、先祖代々の貯めた金が金蔵に余って困っているため、大名家や大商家に何万両と貸し出すと、大きな利息がついて戻ってくるからまた増えて、300人居る番頭が1年かけて数えてもまだ終わらない。

またある時は、泥棒が入ったので、『金蔵を開けて好きなだけ持って行け』と言い残し寝てしまったのだが、千両箱を80しかもって行かなかったのだ」などなど、と。

この客の話に、食われに食われた亭主は、「商売不振につき、内職として富札を売っているのだが、売れ残りの1枚を買ってくれないか」と、頼む。

一分(約2万円)で千両(約8千万円)当たると聞いた客は、「もらっても邪魔だから」と、断るが、「滅多に当たらない」と強調して買ってもらうと、「もし当たったら半分やる」と約束し、一杯飲んで寝るからと、亭主に夕食を言いつける。

亭主が降りて行くと、客はがっかりし、「ちょっとおどかしてやろうと思ったら、いやに素直に信用しやがって」とこぼすが、「飲むだけ飲んで、食うだけ食ってずらかっちゃおう」と、開き直る。

明くる朝、亭主が出かけた後で、客が降りてきて「この先の大名家に貸してある三万両(約24億円)を、今日返しに来られると困っちゃうから、返さないでもらうように頼みに行く」と言い、出かける。

湯島天神は、富突きの当日で大にぎわい。

期待にわくわくする群衆の中には、「五百両当たったら、細かく崩して胴巻きに入れ、吉原へ冷やかしに行く」と言っている者など、延々と夢を語るやつであふれていた。

富突きが終わり、人が散った後にやってきた主人公の客は、一番富の千両が当たっているのに驚き、金も貰わずに宿屋へ飛んで帰り、「寒気がするから」と、二階へ行き布団を敷いて寝込む。

遅れて当たり番号を確かめに来た宿屋の亭主も、客が当たったのを知り、震える足で帰ると、客の見舞いに二階へ上がる。

「な、なンだ本当にお前は、えぇ!下駄履いたまんま、上がってきちゃったじゃないか、下駄履いたまんま!」

「あァ下駄履いたまんま? あっ!本当だ、どうも、すいません、舞い上がっちゃったもんで、ま、いいですよ、お客さん、早く下行って一杯呑みましょうよ、お客さん起きてくださいよォッ!」

って布団をピューっと開けると、客も草履を履いて寝ていた。

[補足]

この噺は、上方落語の『高津(こうず)の富』を、桂文吾から教わった三代目柳家小さんが東京に移植したものだといわれています。

また五代目柳家小さんが「志ん生さんが演っている『宿屋の富』は、大阪の『高津の富』そのままに近い演り方です」といっており、志ん朝演出は、この志ん生流を継承しています。


大工調べ

与太郎をかばう江戸っ子の棟梁の粋を感じられる、江戸時代の逆転裁判の噺

頭は弱くても腕は良い大工の与太郎が、仕事に出てこないのを心配して、棟梁とうりょう政五郎まさごろうが見舞いへ行くと、「道具箱を取られたから」だと、与太郎は言う。

盗まれでもしたのかと思えば、一両と八百文(約10万円)滞納した店賃たなちん抵当かたに、家主の源六げんろくに差し押さえられたものらしい。

叱りながらも、面倒見のいい政五郎は、もち合わせの一両(約8万円)を用立て、家主のところへ行かせる。

金を受け取った源六が、不足分を要求すると、与太郎は「一両なら御の字だ、商売道具なのだからいいずくによればただでも取り返せるのだ、たかが八百ぐらいあたぼうだァ」

などと、政五郎に伝授された通り、ぶちまけるので、源六は怒って追い返す。

報告を聞いた政五郎は、与太郎を伴って出向き、非礼をわびて、「道具箱を返してやってくれ」と頼むが、源六はいちいち言葉尻をとがめ、「一文欠けても返さない」と断り、なおも懇願する政五郎を、「雪隠せっちん大工が町役人に逆らうな、目障りだから帰れ」などと、ののしる。

これに激怒して尻をまくった政五郎は、惨めな流れ者から家主・町役人にまで成り上がった源六の汚い過去を言い立てに、与太郎にも毒づかせる。

この一件により、政五郎は願書を出し、これで訴訟沙汰となる。

そして、町奉行所の差し紙で呼び出されて行くと、奉行は与太郎の町役人への悪口雑言の悪態を叱ってから、政五郎に八百文を借り受けて、源六に返すように命じる。

一時引き下がり、腰掛け(控え所)で、与太郎から八百文を受け取った源六は、

「こちらは公事くじ(訴訟)馴れしているのだ、負けるはずがない」と、自信たっぷりに言う。

しかし、また呼び出された白州(法廷)で、

「店賃の抵当に道具箱を預かったのなら、質株を所持するか?」と、奉行に問われてうろたえる。

「質株もなし質物をとるとは不届き」と奉行は源六を叱り、「重き咎めるところだが、店子の訴えなので、過料で許す」と奉行は温情を示し、道具箱を取り上げた20日間分に相当する与太郎の手間賃として、銀二百もんめ(約25万円)を支払えと命じる。

腰掛けで与太郎がこれを受けとると、また白州へ呼び出した奉行が、一件落着を告げ、去りかける政五郎に、

「ちと儲かったであろう。さすが大工は棟梁(細工は流々)」

「へえ、調べ(仕上げ)を御覧ごろうじろ」

[補足]

裁判に関する講釈(講談)の話から落語化した、政談もの、または裁きものと呼ばれる演目のひとつです。

三代目柳家小さんが十八番としていましたが、サゲまでは演じず、古今亭志ん生が深く傾倒していた四代目橘家円喬が、お裁きのくだりまで演じ、得意としていました。また、志ん生は三代目小さん流の与太郎の啖呵を切るおかしみも盛り込み、志ん朝はこれを継承しています。

さらに棟梁が、与太郎の家主へ啖呵を切る場面では、言葉を詰めて話す江戸なまりと、棟梁の江戸っ子の威勢の良さが、とても魅力的です。

ちなみに、サゲは「細工は流々調べを御覧ごろうじろ」をもじっています。

これは裁判で、初めは家主優勢の結末になったと思いきや、

結果としては、家主に一泡吹かせる事が出来た裁判だったからこそ、のサゲです。


まとめ

志ん朝の落語は、スピードとリズムの心地の良さに加え、華やかさ、そしてなにより、その人柄の良さが、魅力です。

江戸っ子の艶のある落語を感じられるのは、志ん朝だけだと思います。

落語は、噺の内容だけでなく、それを上回る演者自身の魅力があってこそ、さらに輝きを増します。

それでは、おあとがよろしいようで。


 わつなぎオススメ記事 >>【落語】落語の神様!五代目「古今亭志ん生」代表演目あらすじ解説[厳選三演目]


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あやふみ亭

あやふみ亭

小中学生のときに見た『タイガー&ドラゴン』をきっかけに、落語を聴き始めました。
失敗談を笑えて、人情味が溢れている落語が大好きです。

月に3〜5回ほど、寄席へ足を運んでいます。
また、ラジオを聴くことも大好きです。
「自らのやじ馬の目で見て、耳で聞いた面白いこと」を書いて、
読んだ人が、日本文化への興味関心を示す、
窓口になれば良いなぁと思っています。


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